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ヒンドゥーの神々の物語④/ヒンドゥーの神様たちとインドの人々<最終回>【コラム】

2022/03/25 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 福岡アジア美術館で3月29日まで開催中の「ヒンドゥーの神々の物語」。同館学芸員の五十嵐理奈さんより、展覧会の見どころを寄稿いただきました。

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 「ヒンドゥーの神々の物語」のコラムも最終回。最後に、展覧会で紹介している石版画やガラス絵などに描かれてきたヒンドゥーの神様たちが、実際にインドの人々の暮らしのなかではどのように息づいているのか、ヒンドゥーの祭礼を撮影した沖守弘(1929−2018年)の出品作品からたどってみましょう。

 写真家の沖守弘は、1974年に初めてインドを訪れ、以後、1996年までの約20年間にインドやネパールを70回以上訪れ、2万枚の写真を撮りました。学生時代から社会派の写真家をめざしていた沖は、人口問題に関心を寄せ、当時世界最悪の居住環境といわれた過密都市コルカタ(カルカッタ)へ飛びました。そこでマザー・テレサに運命的な出会いをし、取材を重ねるかたわら、インド全土を巡って、各地の祭礼や遺跡、工芸、映画、民俗画、そしてそこに生きる人々の姿をカメラに収めていったのです。沖の取材先は、次第に都市から地方へ、辺境の地へと向かい、ついには機材を積んで自ら四輪駆動車を運転し、砂漠から水辺までインド亜大陸を縦横に駆けぬけました。

 沖が撮影したインドの祭礼はにぎやかで華々しく、神像は壮大なスケールで写し出されます。[図1]は、1980年代中頃に撮影された、インド西部のムンバイ(ボンベイ)の街路をパレードするガネーシャ神の塑像。左右の建物の窓からは、人々が身を乗り出して色粉や花びらを進みゆく像にふりかけて祝福しています。 

[図1]沖守弘《ガネーシャ祭(マハーラーシュトラ州ムンバイー)》1980年代中頃、国立民族学博物館 (Photo by F.M.Oki)

 ヒンドゥー教徒の人々にとって、神の像は、たんなる作り物ではなく、聖なる存在が宿る媒体です。祭礼のはじめに神霊が呼び込まれ、祭礼期間中には寺院などに置かれた神像に多くの人が礼拝に訪れ、化粧をほどこしたり、食べ物を捧げたりしてもてなします。そして、祭礼の終わりには、海や川に流して精霊を異界へと戻すのです[図2]。

[図2]沖守弘《ガネーシャ祭(マハーラーシュトラ州ムンバイー)》1984年、国立民族学博物館 (Photo by F.M.Oki)

 また、[図3]は、インド北部ウッタル・プラデーシュ州での春の訪れを祝うホーリー祭で、人々は色粉を掛け合い祭りに熱狂します。人々の体温と多色の泥水とでむせ返るような熱気が伝わる、1996年の沖最後のインド訪問での渾身の一枚です。

[図3]沖守弘《ホーリー祭(ウッタル・プラデーシュ州マトゥラー)》1996年、国立民族学博物館 (Photo by F.M.Oki)

 インドの人々は、屋外や寺院での大規模な祭礼に興じるだけではなく、家庭でも神々への礼拝儀礼、プージャーを行います。自宅の祭壇に神像を置いたり、本展で紹介したような神様のポスターを額に入れて壁面に飾り、さらに聖化のための赤い粉をつけたり、花輪を掛けたりして飾りつけます[図4]。神様の姿をたんに目で眺めるだけではなく、大きな祭礼においても、家庭でもみずから手を施して関わることで神様と心を通わせてきました。「ヒンドゥーの神々の物語」は、昔も今も、人々の暮らしのなかに息づいているのです。

[図4]インド南部タミル・ナードゥ州のある家庭に飾られたヒンドゥー神の人形と壁面に掛けられた神様絵。(1990年、杉本良男撮影)

※沖守弘が1970年代から20年にわたりインドで撮影した写真2万点は、2013年に国立民族学博物館に一括寄贈され、「沖守弘インド写真データベース」として公開されている。

(福岡アジア美術館学芸員・五十嵐理奈)

 

【ヒンドゥーの神々の物語①】はコチラ
【ヒンドゥーの神々の物語②】はコチラ
【ヒンドゥーの神々の物語③】はコチラ

 

インド独立75周年・日印国交樹立70周年
ヒンドゥーの神々の物語

会期:2022年1月2日(日)~3月29日(火)
観覧時間:9:30~18:00(金曜・土曜は20:00まで)
※ギャラリー入室は閉室30分前まで
休館日:水曜日
会場:福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7階)
観覧料:一般200円、高大生150円、中学生以下無料

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