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繁栄映す古代都市の邸宅「ポンペイ」展 九州国博 芳賀東大教授に見どころを聞く 「炭化したパン」クッション人気【コラム】

2022/11/10 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 約2千年前の火山噴火で埋もれた古代ローマ都市に迫る特別展「ポンペイ」(西日本新聞社など主催)が、福岡県太宰府市の九州国立博物館で開かれている。125点の貴重な出土品が並ぶ会場で、ひときわ目を引くのが、富裕層の邸宅を再現したコーナーだ。特別展を監修した東京大大学院人文社会系研究科の芳賀(はが)京子教授(美術史)に、邸宅再現の意義や見どころを語ってもらった。また、関連のグッズ販売で人気を集める「炭化したパン」のクッションの制作秘話を担当者に聞いた。 (塩田芳久)
 

東京大大学院人文社会系研究科の芳賀京子教授

2000年前楽しめるテーマパーク 食器、調理器具、宝石… 床や中庭も再現
 
―会場には三つの邸宅の一部が再現されている。
 「『ファウヌスの家』『竪琴(たてごと)奏者の家』『悲劇詩人の家』ですね。それぞれ①紀元前89年にポンペイがローマに征服される前②征服された後③紀元79年の噴火直前―の三つの時代を代表する邸宅です」

「ファウヌスの家」の床にあった「アレクサンドロス大王のモザイク」(展示は複製品)。裕福な生活ぶりが伝わる

 ―細部まで再現されている。
 「世界中の遺跡で大半の建物は壁面すら残っていない中、ポンペイは家自体が残り、邸宅の状態が分かる希有(けう)な遺跡です。このデータを基に実物に近い再現ができ、ポンペイの繁栄の歴史が伝えられます。邸宅の再現もそうですが、状態のいい展示品の数々は火山噴火で埋もれたポンペイ遺跡の特徴を物語っています」

 ―展示のこだわりは。
 「それぞれの邸宅で出土したものは、努めてその邸宅に展示しています。食器や調理器具、宝石や彫刻、モザイク画もあります。この邸宅ではどんなものを使ってどんな暮らしをしていたのか、住んでいた人を感じられる展示にしました」

「ファウヌスの家」に飾られたモザイク画「葉綱と悲劇の仮面」。精緻な表現に目を奪われる

 ―各邸宅の見どころは。
 「『ファウヌスの家』はローマの征服前からある旧家で、ポンペイ最大級のもの。高精細のモザイクで装飾された床など富裕層の暮らしぶりが伝わります。征服前の古い言語が記された祭壇も見つかっています(九州国立博物館では展示なし)。伝統を大切にし、長くポンペイに暮らしてきた誇りが感じられます」

「竪琴奏者の家」の再現された中庭。イオニア式円柱が周囲に配置されている

 ―「竪琴奏者の家」はローマ帝政期に繁栄した。
 「ポンペイで五本の指に入る豪邸です。中庭には古代ギリシャ建築のイオニア式円柱が巡り、庭の中央には人工の池とブロンズの動物像で飾られた噴水があります。邸宅を拡張・改築したことも分かっており、だんだんと力を大きくしていった家のようです」
 

「悲劇詩人の家」の玄関にある「猛犬注意」のモザイク画の複製

 ―「悲劇詩人の家」は「猛犬注意」のモザイク画があることでも知られる。
 「前の2邸より小ぶりですが、噴火直前に描かれたフレスコ画が数多くあるのが特徴です。神話やトロイア戦争を描いた作品もあり、歴史への興味関心を持つ持ち主の姿が浮かびます」
 「再現した三つの邸宅はテーマパークのような楽しみ方ができるでしょう。同時に展示品を通して2千年前を想像し、そこにいた人々のことを考えると楽しさが倍増すると思います」

「悲劇詩人の家」にはフレスコ画が飾られている

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「炭化したパン」歴史を知るきっかけに
 特別展「ポンペイ」のミュージアムショップで販売されているグッズの中で、異彩を放っているのが「炭化したパン」のクッションだ。交流サイト(SNS)で紹介され、人気がじわじわと広がっている。

「炭化したパン」のクッションを手にする平田直樹さん。グッズコーナーで4950円(税込み)で販売中

 グッズを企画・制作したのはNHKプロモーション(東京)の平田直樹チーフ・プロデューサー。同展に展示されるパンの写真を見た瞬間、「グッズにしよう」と思い立った。「白いフローリングに調和するクッションの姿が浮かんだ」

 「炭化したパン」は当時の典型的なパンで、分けやすいように切れ目が入っており、2000年前の知恵と工夫が伝わる。「普通は目玉の展示品がグッズになるが、パンはそうではない。しかし、展覧会の担当者から『このパンでポンペイ展のいろんなことが語れる』と助言をもらった」と平田さん。人々の食生活、パン店があった町の風景、炭化したまま残った理由―。パンにはポンペイの歴史と魅力が詰まっている。

展示されている「炭化したパン」。分けやすいように切れ目が入っている

 グッズに反応したのは若者が中心という。「ポンペイのことを知らない人でも展覧会を訪れて興味を持ち、歴史や文化財のことを友人や知人に話してほしい。グッズが、きっかけになることを願っている」

=(11月10日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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