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女性モチーフに際立つ不条理  「岡上淑子・藤野一友」の幻想世界 9日まで福岡市美術館で特別展【コラム】

2023/01/05 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 幻想的で緻密な描写で知られる藤野一友(1928~80)と、写真を用いたコラージュ作家岡上淑子(95)は、ともに戦後復興期から活躍し、女性をモチーフにした夢のような世界観の作風で知られる。福岡市美術館の特別展「藤野一友と岡上淑子」は、2人の影響関係に着目。通じ合う部分や違いを浮き彫りにする。両者の作品をそれぞれの個展のように分けて初期から時代順に展示。計約200点から、時代背景や2人の歩みが見えてくる。

 藤野は、50年代から二科会を中心に活動。シュールレアリスムのサルバドール・ダリに憧れ、西洋の神話や古典などに影響された幻想的な絵を描いた。モチーフは主に理想化された女性の肉体だった。

 一方、岡上は、文化学院で学んでいた1950年、美術のちぎり絵の授業をきっかけにコラージュを始めた。進駐軍が残した雑誌「VOGUE」などから切り取った女性の写真を貼り合わせた作品からは旺盛な好奇心が伝わる。初期作品は、海外の最先端のファッションに身を包み、手足を大きく振り上げて躍動したり、物憂げに一点を見つめたりする女性を捉え、当時の多感な彼女の心情が表れているかのようだ。

 そんな藤野と岡上は51年頃に文化学院で出会った。藤野は日本アンデパンダンなどに出品するなどして精力的に活動。岡上は滝口修造に見いだされ、才能を開花させていく。

 岡上はこの頃、人物だけでなく、背景にも写真を使うようになる。「長い一日」(52年ごろ)は女性が家の窓から顔を出したり、上半身が家になった女性が住宅地の屋根に立ったりしている。自由を欲しながら、家に縛られている女性たちの姿を暗示するこの作品は、社会的な役割が限定されていた時代の女性の声を代弁しているかのようだ。

岡上淑子「長い一日」(1952年ごろ)

 別の作品では、戦後の廃虚とみられる場所や、急速に増えた工場で、堂々と歩く女性たちを表現し、その姿は不安や不自由から解放されたかのように見える。

 藤野の「町工場のバラード」(55年)も、戦後急速に工業化する社会が背景にある。無機質になっていく世界で解体される人間たちを描くが、男性が女性を加工する構図には男性優位のまなざしがうかがえ、肉体の緻密な描写に女性の体への偏愛ぶりも感じられる。

藤野一友「町工場のバラード」(1955年) 

 2人は57年に結婚。長男も生まれた。自宅アトリエで制作する藤野に、岡上が助言することもあった。藤野の「眺望」(63年)は、動けないように固められた女性の上で、岡上の助言によって描かれた子どもが遊ぶ。「抽象的な籠」(64年)の宇宙的な空間に横たわる女性の体は空洞で、中に描かれた女性や子どもには生命の循環が感じられる。こうした表現にも岡上の影響があっただろう。

 藤野は絵画だけでなく、舞台演出や装丁、挿絵など幅広く活動していく。岡上は結婚後も表現を続けるつもりだったが、母親が体調を崩し、子育てなどもあり、制作から離れた。65年、脳卒中で右半身不随になった藤野のリハビリを支えたが、2年後に離婚。左手で制作を続けた藤野は、80年に急性心不全で51年の生涯を閉じた。

 岡上作品は近年再評価が進む。写真史家の故金子隆一に再発掘され、2000年に44年ぶりの個展が、18、19年に高知と東京で大規模個展が開かれた。理想や自由を追い求める作品は現代の女性とも共鳴する。

 男女のまなざしの違いや、絵画と写真のコラージュという表現手段の差異はあるものの、2人の作品は女性をモチーフに不条理さが際立つ点で共通する。互いの影響などを想像しながら鑑賞するうちに、2人のワンダーランドに迷い込んでいた。 (丸田みずほ)

 ◇9日まで、福岡市中央区の市美術館。

=(1月5日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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