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神を崇拝 死者再生願う  ミイラや木棺、ジュエリーなど約200点 「古代エジプト美術館展」来月28日まで福岡アジア美術館 【コラム】

2023/04/27 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 古代エジプトを専門とする国内唯一の美術館「古代エジプト美術館 渋谷」(東京)のコレクションを紹介する「古代エジプト美術館展」(西日本新聞社など主催)が、福岡市博多区の福岡アジア美術館で開かれている。世界的に貴重な史料から当時の人々の生活や価値観がうかがえる物品まで約200点が並ぶ。8日の開幕日、古代エジプト美術館を設立し、コレクションを収集・所有する菊川匡(ただし)さんのギャラリートークに同行した。 (文・樽海麻里奈、写真・石田禎裕)

死者の頭部などを覆うために作られたミイラマスク。
来世で聖なる者として再生することを願い、顔の部分には金が張られている

 「意外かもしれませんが、ネコのミイラはいい匂いがするといわれています」「当時の人々も現代の私たちと同じようにパンや肉、魚などを食べていました」。日本を代表する古代エジプト遺物の収集家として知られる菊川さんはエジプトでの現地調査にも携わる。興味深いエピソードを交えながら場内を回った。

古代エジプトで多くの神を象徴する聖鳥だったハヤブサのミイラ(手前)。他にも動物のミイラが作られる例はよくあった

 会場は大きく四つのテーマで分けられ、最初は古代エジプトで信仰を集めた神々に焦点を当てる。サイズは小さいが、精緻に作り込まれた神像や護符が並ぶ。「歴史的な価値はもちろん、美術品としても目で見て美しいと思えるものを収集してきました」。菊川さんの説明にうなずいた。博物館ではなく美術館と名乗る理由もそこにあるという。

ファラオが両手を掲げ、レリーフの左側に描かれていたであろう神を崇拝している。ファラオの顔は何らかの理由で破壊されている

 次は、古代エジプト社会の頂点に君臨し、常に絶対的な権力を有していたファラオ(国王)に関するエリア。ここでは、神殿の柱の基部で、直径1メートルを超える巨大な石柱がひときわ目を引く。展示品の中で唯一ガラスケースに入っていないため、身を乗り出して間近で凝視する来場者も。

ファラオの名が刻まれた神殿の柱の基部。神の名も記され、ファラオの絶大な権力を物語る

 乾燥した気候のため、人々の生活に関わる史料が他地域に比べて多く現存するのも古代エジプトの特徴だ。衣食住を特集したエリアでは、化粧品を入れるつぼや小さな容器、杯、鏡、枕などが並び、生活感が伝わる。菊川さんが「個人的にお気に入り」と紹介したのは色とりどりのジュエリー。ファイアンスと呼ばれる焼き物や宝石、ガラスなど多彩な素材をビーズにしてつないだ首飾りは、副葬品としての役割も大きかったという。

色とりどりのジュエリー。赤は太陽の象徴、青や緑は再生・復活など、それぞれの色に意味が込められている

 最後のエリアは、石室の中を思わせる黒い壁で囲われた中に、ミイラマスクや巨大な人型の木棺が並ぶ。木棺の表面には、死後の世界で審判を受けた死者が来世でよみがえり、神となるまでの物語が図で示されている。古代エジプトでは死者の再生・復活が信じられ、ミイラを作る手順も決まっていた。会場の最深部には、少女のミイラの頭部と左足が展示されている。

ミイラが収められていた人型の木棺。表面には「死者の書」の内容が図で示され、死者がよみがえるまでの物語をたどることができる

 「日本人の観点、美的感覚で集めたコレクションがそろっています。日本の美術館だけでも、これだけの展示ができるということが伝わればうれしい」。菊川さんの自負が感じられた。

 どの展示からも、ファラオの強大な権力や神への信仰心、古代エジプト文化の根底にある再生・復活への願いが伝わってきた。現地の最新調査の様子も紹介されている。ピラミッドを探検するような気持ちでぜひ一度足を運んでみてもらいたい。

=(4月26日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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古代エジプト美術館展 
5月28日まで、福岡アジア美術館。観覧料一般1600円、高大生1300円、小中学生800円。水曜休館(5月3日は開館、8日は休館)。西日本新聞イベントサービス=092(711)5491(平日午前9時半~午後5時半)。

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