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Colourful Crisis on Our Plate  ─ お皿にのった色とりどりのクライシス(危機)【コラム】

2023/05/09 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 山口情報芸術センター[YCAM]では「食と倫理リサーチ・プロジェクト」の成果を発表する展覧会「The Flavour of Power(ザ・フレーバー・オブ・パワー)─紛争、政治、倫理、歴史を通して食をどう捉えるか?」(〜 2023年06月25日(日)まで)が開催中です。本展の企画担当者、キュレーターのレオナルド・バルトロメウス氏に同展についてご寄稿いただきました。

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写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

 一皿の料理を前にして、みなさんはどんなことを思い浮かべますか?見た目の美しさ?味?ヘルシーかどうか?もしくは、その奥にある、何か別のもの?

 山口情報芸術センター[YCAM] が2021年から取り組む、「食と倫理リサーチ・プロジェクト」はまさに、こうした問いを探求するための研究開発プロジェクトです。

 この「食と倫理リサーチ・プロジェクト」のなかで、YCAMはインドネシアのジョグジャカルタを拠点に活動するアーティストコレクティブ、バクダパン・フード・スタディ・グループとともに食と倫理の関係をめぐる議論を重ねてきました。この議論で重視したのは、「日々の食に対して前提を疑うこと」そして、「批評的な視点で食を捉え直すこと」です。

 長きに亘る議論の第2章として開催するのが、食(主に米)、紛争、技術、歴史の交差点に焦点をあてた展覧会「The Flavour of Power─紛争、政治、倫理、歴史を通して食をどう捉えるか?」です。この展覧会では、政治や紛争といった「食」をめぐる歴史的な背景を紐解くことで、それらがどう、私たちの食に影響を与えているのかをアーティストの視点から尋ねていきます。

 バクダパン・フード・スタディ・グループは、「食」と食のもつ多様な側面への関心をもつメンバーによって生まれたアーティストコレクティブです。「食」はお腹を満たすだけではなく、「食」との付き合い方を考えたり、人生を振り返る “きっかけ” となりうるというのが、バクダパンの考え方。

 「スタディ・グループ」の名前の通り、彼らはリサーチを軸に、アート制作やワークショップ、ガーデニングなど日々の生活のなかでの実践に至るまで、多様なアウトプットを通じて、政治的な歴史や不正、農業紛争といった「食」のもつ隠れた背景に光を当てることを試みています。

写真提供:Bakudapan Food Study Group

 今回の展覧会では、2つの作品を発表しました。そのうちのひとつをここでは紹介したいと思います。(ほかの作品はぜひ会場でお楽しみください!)「ハンガー・テイルズ」と呼ばれるボードゲームです。バクダパンは、ゲームデザイナーのパンドゥ・ワンディータと共同で、このゲームを開発しました。

 ハンガーテイルズは、食糧危機、政治、社会の複雑さ理解するためにつくられたボードゲームです。食をめぐる、生産から流通までの食料生態系について学ぶためツールとして制作されました。プレイヤーは遊びながら、現実世界で起こりうる「食糧危機」を疑似体験することができます。プレイヤー、ひとり一人の行動が、ここでは生態系全体に影響を与える可能性があるのです。

撮影:塩見浩介

 

撮影:塩見浩介

 

撮影:塩見浩介

 まず、このゲームには、 「農家A」「農家B」「卸売業者」「市長」の4人のキャラクターが登場します。キャラクターにはそれぞれ、勝利条件が設けられています。例えば、農民Aは家族のためにお金を蓄える必要があったり、市長は自分以外のプレイヤーから票を集める必要があったり…。それぞれ異なる勝利条件が、各プレイヤーの戦略に影響を与えるのです。

 ほかにもゲームの進行を妨害する、特有の影響力を持った4つの「イベント・カード」がゲームの世界を複雑に盛り立てます。このゲームの最大の危機が「食糧危機」です。食糧危機が起こると、すべてのプレイヤーの状況は不利になります。

 このゲームの制作においてバクダパンは、プレイヤー間の「交渉」にも重きをおきました。融資や食料の販売、競合ライバルへの交渉がゲームの鍵を握ります。会場に設置したゲームブースでは、「ハンガー・テイルズ」の世界観を現したミュージックビデオも展示しています。魅惑的なビートに乗って、リラックスした雰囲気のなかでプレイを楽しんでください!

 ルールの複雑さに最初は戸惑うかもしれません。でも、ゲームという気楽さや楽しさがあるからこそ、私たちは「食」と「政治問題」を考えてみることができるのかもしれません。現在、YCAMでは4月と5月の週末に、「ハンガー・テイルズ」のゲーム体験会を実施しています。ぜひ、私たちと一緒に食糧危機について遊び、勉強してみませんか?

(本展企画担当者/レオナルド・バルトロメウス(キュレーター))

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