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【学芸員コラム】久留米市美術館の川端康成展(後編)画家が小説に?

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アルトネ編集部
2017/05/01
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文豪・川端康成のコレクションを紹介する展覧会が久留米市美術館で開催されている。そのみどころについて、副館長兼学芸課長の森山秀子氏に寄稿いただいた。(編集部)

古賀春江《サーカスの景》 1933年 神奈川県立近代美術館蔵

久留米市美術館で開催中の「川端康成 美と文学の森」展では、川端と画家との交流、さらに川端の小説の中に出てくる画家や美術作品も紹介しています。  

1953年の『群像』で4回にわたって発表された未完小説「いつも話す人」に、すでに亡くなった画家として登場する有川庄三は、古賀春江がモデルだと言われています。小説は、嵯峨に住む波野が鎌倉の竹久の家を訪ねるところから始まります。その際、波野は竹久の亡友有川の色紙を持参します。その持参した色紙の中に「虎が人間を食つてゐる絵」があり、それを見た竹久は、有川が病院のベッドに仰臥しながら色紙を描き死んでいくシーンを思い出します。1933年に亡くなった古賀春江は、死の床で錯乱状態となり色紙を多数描きました。また彼の絶筆《サーカスの景》には、サーカスの虎が描かれています。小さな色紙と油彩の大作、どう猛な虎とおとなしい虎という違いはありますが、小説の中にある「虎が人間を食つてゐる絵」の発想は、この《サーカスの景》から生まれたもののように思われます。

 小説では、他の画家の手になる古賀春江夫妻の肖像が描かれた色紙も出てきます。その肖像画が本人たちに似ているという話から、本題である波野の娘路子の話へと展開するわけです。一面識もない波野と竹久をつなぐ役割を、さらに物語を展開させる役割を有川(古賀春江)が果たしているのです。言わずもがなのことですが、「鎌倉の竹久」は、川端自身のことだと思われます。

 川端康成は晩年の古賀春江(と言っても38歳で亡くなるのですが)と大変親しくしていました。二人は犬を介して知り合ったと言われています。発病した古賀を東大病院に入院させ、手厚い看護をしたのも川端でした。古賀は、川端にとって生涯忘れられない友であり、ことあるごとに古賀のことにふれています。川端の小説の中に登場するのも不思議ではありません。

 

森山秀子(もりやまひでこ

久留米市美術館副館長兼学芸課長おもに日本近代洋画を担当。今まで担当した展覧会に、「古賀春江―前衛画家の歩み」(1986年)、「坂本繁二郎展」(2006年)、「PASSION 石橋正二郎生誕120年を記念して」(2009年)、「古賀春江の全貌」(2010年)、「没後100年 青木繁展」(2011年)、「髙島野十郎 里帰り展」(2011年)(以上石橋美術館)、久留米市美術館開館記念「九州洋画」展(2016-17)など。

 

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