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北九州市立美術館で開催中「磯崎新の原点」展。 担当学芸員が紹介する、九州における建築や美術作品、人との出会い(後半)

2025/02/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

大分が生んだ建築界の巨星であり、知の巨人であった磯崎新氏(1931―2022)の展覧会「磯崎新の原点 九州における1960-70代の仕事」が北九州市立美術館で開催中です(3/16まで)。担当学芸員・落合朋子さんの寄稿の後半は、磯崎氏や氏の仕事を支えた福岡相互銀行・四島司氏の文化、芸術との関わりについても紹介してくださっています。(前半を読む
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北九州市における磯崎建築

 当館のある北九州市は、1963年に八幡市、門司市、戸畑市、若松市、小倉市の五市合併により誕生しました。新しい市のシンボルとなる建築が求められており、1967年から20年にわたって市長をつとめた谷伍平の在任時、市内に次々と新しい公共建築が誕生します。磯崎も谷の依頼によって、1970年代に丘の上の美術館、小倉城に隣接する図書館、水辺の展示場と、それぞれの用途、立地に応じてシルエットもデザインも全く異なる3つの公共建築を手がけています。1990年には、西日本総合展示場と道路を挟んだ場所に、北九州国際会議場が竣工し、北九州市の街並みを磯崎の建築がさらに彩ることになります。

建築を記録する方法としての版画作品

磯崎新
《内部風景III 増幅性の空間-アラタ・イソザキ》1979年 北九州市立美術館蔵
ⒸEstate of Arata Isozaki

 ところで磯崎は1970年代後半から自身が設計した建築をモチーフとした版画を手がけています。長いスパンで考えると、いずれ建築は解体せざるをえない日が来ますが、版画という媒体で建築のコンセプトなどを伝える作品を制作すれば、建築が解体されたのちも、自身の建築を未来へと伝えることができると磯崎は考えたのです。《内部風景Ⅲ 増幅性の空間-アラタ・イソザキ》では福岡相互銀行長住支店の1階の写真が取り込まれ、《Reduction OFFICE-Ⅰ(Bank)》では、福岡相互銀行本店が俯瞰して捉えられています。
 

磯崎新《Reduction OFFICE-Ⅰ(Bank)》1983年
北九州市立美術館蔵
ⒸEstate of Arata Isozaki

空間プロデューサーとしての磯崎氏の仕事
珠玉の20世紀美術が揃う「四島コレクション」の形成へ

 磯崎の建築から生み出されたものは、版画にとどまりません。福岡相互銀行本店は1971年の開店当時、様々な美術品に彩られていました。磯崎は四島に、銀行内を飾る作品を現役の美術家に依頼することを提案したのです。6階の応接室の装飾を、磯崎の推薦で斎藤義重に、四島の推薦で野見山暁治と西島伊三雄に依頼し、さらに磯崎も加えた4つの個性的な応接室が誕生しました。もともと美術鑑賞が趣味だった四島は、磯崎の建築の空間の使い方や、斎藤義重の応接室の抽象画などから刺激を受け、抽象画を好むようになります。作家のアトリエを訪れ、対話を重ねながら、行内を彩る作品の収集に力を入れ、抽象画を中心とした「四島コレクション」が形成されていきました。

 展覧会では、磯崎が1960年代から1970年代に九州で手がけた建築に関する模型や資料、自身の建築をモチーフとした版画作品、四島が収集したヴァシリー・カンディンスキー、ヘレン・フランケンサーラー、ヤニス・クネリス、アンゼルム・キーファーなどの作品を紹介しています。建築のみならず、美術など様々な分野を越境しながら活動した磯崎の幅広い活動が見えてくるのではないでしょうか。

ヴァシリー・カンディンスキー《合意》1939年 Walkアセットマネジメント蔵

誰でも閲覧できる「磯崎新建築アーカイヴ」
 また今年度、当館は文化庁のInnovate MUSEUM事業に採択され、磯崎が設計した本市の公共建築と大分市美術館にご協力いただき大分県立大分図書館(現・アートプラザ)の動画撮影を行いました。これらの映像は会場のモニター以外に、当館ホームページ(1)でもご覧いただけます。展覧会の予習・復習にぜひ、磯崎新建築アーカイヴもご活用ください。

(1)磯崎新建築アーカイヴ 動画記録はこちら

落合朋子(北九州市立美術館 学芸員)

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