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大分県立美術館開館10周年記念展「LINKS―大分と、世界と。」みどころ② 大分アヴァンギャルドの発祥地・一風変わった画材店「キムラヤ」に集う文化の担い手と作品の数々

2025/05/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 大分県立美術館(OPAM)では、現在、開館10周年記念して「LINKS―大分と、世界と。」が開催されています(6月22日まで)。日本画、洋画、前衛美術の名品がずらり揃う本展の作品の中から、主任学芸員木藤野絵さんが、後篇として、前衛芸術発祥地としての大分のルーツを紹介してくださっています。
(前篇をよむ →日本の初期洋画史に大分出身の立役者あり。藤雅三と九州の洋画家たち
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 初期洋画に始まる本展のハイライトの一つが、大分の街に根付いたアヴァンギャルドを振り返るコーナーです。大分市にかつて「キムラヤ」という画材店があり、戦前から画家をはじめ文化人が集まる場として機能しました。戦後には「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」のルーツともいえる「新世紀群」がここで結成され、磯崎新や吉村益信、赤瀬川原平、風倉匠といった面々が交わりました。今回はまずキムラヤについて、そして「新世紀群」についてご紹介します。

 「キムラヤ」は「キムラヤ洋画材料運動具店」として1926年に大分市中心部に開店しました。創業者の木村純一郎は神戸育ちのハイカラな人物で、大阪の出版社に勤めながら、大分の宮崎書店と縁を持ち、書店の隣にキムラヤを開業します。木村はラグビーやテニスといった新しいスポーツにも熱心で、キムラヤは画材とスポーツ用品を取り扱う珍しい店でした。店内に喫茶室も設置され、木村が神戸から仕入れた珈琲や洋菓子が給されました。

山下鉄之輔《人物》1930年 大分県立美術館所蔵

 もう一人、キムラヤの黎明期を支えた人物がいます。画家の「山下鉄之輔」です。この人物は福岡生まれで、東京美術学校で萬鉄五郎と親しくし、卒業後は岸田劉生らのフュウザン会に参加した先取の精神に富む画家でした。萬と同じく美術学校の同級生で大分出身の片多徳郎の紹介により、教師として赴任。宮崎書店に出入りします。キムラヤが開店すると山下と木村の牽引力により、数々の洋画展が開かれるようになります。1928年には古賀春江、その後古賀と親しかったシュルレアリスム系の画家・阿部金剛が訪れ、1931年には大分の県南・佐伯市出身の妻を迎えた猪熊弦一郎の個展が開催されました。本展では古賀、阿部、猪熊のキムラヤゆかりの作品が並びます。

右 古賀春江《月花》1926年 東京国立近代美術館所蔵
左 キムラヤ旧蔵の古賀春江《子供》1928年および阿部金剛《ラグビー》1936年 個人蔵

 山下鉄之輔は現存作品が少ないこともあり、歴史的には見過ごされがちですが、大分に芸術文化の種を撒いた重要人物です。旧制大分中学で教鞭をとり、若き髙山辰雄や佐藤敬を指導するとともに、セザンヌやゴッホといった白樺派が好んだ西洋美術の知識を広めました。さらに作家の林房雄、音楽家の園田清秀、岩田学園(磯崎新建築)理事長の岩田正、経営者で俳人の磯崎操次(磯崎新の父)ら、大正末期から昭和初期に大分市で青春期を過ごし、戦後にかけて活躍した多分野の人々が山下の薫陶を受けています。

キムラヤ前にて(中央右:木村成敏、後列右:吉村益信)
撮影者不明 個人蔵

 戦後のキムラヤは二代目の木村成敏を中心に新たなスタートを切ります。木村成敏は労働運動にも深く関わった人物で、画家を志す若者たちを牽引し、磯崎新、吉村益信ら、大分第一高校(旧制大分中学校の戦後の名称)出身者を束ねて「新世紀群」を結成します。彼らはあくまで絵画サークルとして市民に門戸を開き、デッサン会、同人展、講評会、県外講師を招いた講習などをさかんに行いました。美術を一部の層のためではなく、大衆へ広めることを目指した彼らは、2回目以降の同人展を市内の公園で開催。作品をフェンスに展示する「野外展」を試みます。本展では野外展出品作で現存する吉村益信の絵画の他、キムラヤで個展を開催し、その後も機関誌『新世紀』上で交流した河原温のドローイングや《印刷絵画》を展示します。

 続くコーナーはいよいよ「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」ですが、説明するには紙幅が足りません。ぜひここからは会場でお楽しみください。

会場風景:ネオ・ダダのコーナー
会場風景:ネオ・ダダの写真
(石松健男、ウィリアム・クラインら撮影)

 戦後の美術に燦然と現れたこのグループは、磯崎、吉村、赤瀬川、風倉ら、先にキムラヤで出会ったメンバーを基盤としており、大分の地縁が生んだ現象ともいえます。やはりキムラヤが文化の受粉する場となって、大分のモダンあるいはアヴァンギャルドが花開いたのです。

会場風景:ネオ・ダダ以後の試み

キムラヤ黎明期から「新世紀群」かけて公立美術館でご紹介するのは貴重な機会です。連綿と続く大分の前衛を体感いただければ幸いです。
 皆さまのご来場をお待ちしております。

木藤野絵(大分県立美術館 主任学芸員)


OPAM開館10周年記念
LINKS―大分と、世界と。

日時:2025年4月26日(土) 〜 6月22日(日)10:00 〜 19:00  
   ※金曜日・土曜日は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
   ※5月22日(木)は休展日
会場:大分県立美術館(OPAM)
料金:一般 1,400円、大学・高校生 1,200円
主催:公益財団法人大分県芸術文化スポーツ振興財団・大分県立美術館
問い合わせ:TEL097-533-4500
詳細は下記リンクより公式HPにてご確認ください。
公式HPはこちら

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