現在、公立博物館の新設は激減し、年間では廃館数が新設を上回っている。市町村合併による統廃合もあるが、建築と維持のコストが高く、建て替えや新設には二の足を踏むのである。まもなく開館する「大野城心のふるさと館」(福岡県大野城市)は特例の施設ということもできる。
博物館の建築は、地域の文化財を確実に保存するために特殊な工法を採用する。文化財に悪影響を及ぼす湿気や害虫を避け、盗難や災害にも安心で安全な作りが要求される。例えば壁も通常より厚い。現場での打設ではなく、工場で事前に製造して有毒物質や水分が完全に抜けたコンクリート部材を用いることも多い。
空調管理も24時間だ。そのためガラス部分も窓ではなく開かない。最近は風を吹き出す対流方式ではなく、輻(ふく)射パネルによる間接的な冷暖房を採用するところもある。このように博物館は文化財を盗難や災害から守る最新の工夫がなされ、一般のビルに比べてコストがかかるのである。
21世紀になり「官から民へ」の流れの中で、国立博物館は独立行政法人化し、公立博物館には運営を民間に任せる指定管理者制度が導入された。公立博物館では民間委託できると判断された約4分の1が対象となった。経営資源に恵まれた都市部や都道府県が主で、コスト削減等で成果を上げている。
もう一つ、建設から維持管理、さらには運営まで民間資金を活用するPFIの制度もある。しかし、博物館での導入事例は限られている。また、所有権を残したまま運営権を民間事業者に売却する「コンセッション方式」を政府は固めている。長期的な運営が可能で指定管理者制度の抱えた短期の雇用という課題も克服できるという。
事業の継続性が担保できないことや、調査研究という分野が委託になじまないと判断すると、指定管理を選ばずに直営で運営することになる。直営の利点は施策と運営の機能が一体的に行われる点である。しかし、都道府県や政令市のように設置者(本庁)とは別に博物館(出先)が設置されている場合、現実にはうまく機能していない。
双方の立場を経験したのでわかるが、意識のすれ違いがある。博物館からすると、本庁は目標数値を示し予算を削減するだけであとは現場任せだとみている。本庁は、博物館が調査研究には熱心だが行政施策に無理解だと考えている。指定管理のような権限委任とは違い、一元的な経営と運営が可能な地方独立行政法人制度の導入を視野に入れる時期に来ている。
これまで公立博物館の多くは、資料を陳列して歴史に関心のある来館者を待っていればよかった。今の時代はあらゆる手だてを駆使して人を呼びこまなければならない。日本博物館協会が全国の博物館を対象に実施し、昨年3月公表されたアンケートでは、入館者を増やす取り組みとして「広報活動の増強」が多いものの、最も効果があったのは「特別展の積極的開催」と答えた館が多かった。
特別展は常設展示とは異なり、他所から借用することが一般的である。貸与は基本無償なので、博物館は安心安全な環境を整え、人的な信頼があって借用をお願いできる。ただし、国宝などの指定文化財の展示は現在年2回以内、延べ60日以内と決められており、長期間や巡回する展覧会の開催は難しい。保険料や輸送料の負担も安くはない。それでも、集客には欠かせない取り組みと考えられ、開催は単独開催が圧倒的に多い。他館やマスコミ等との共催は美術館が多いが、今後は歴史系でもこうした共催や連携開催が増えると思われる。
特別展開催に次ぐ集客の取り組みが、学校との連携や教育普及活動である。学校の授業と連動したプログラムの提供も、学級単位での集客には欠かせない。子供たちがワクワクするような、CGなど最新のデジタル技術を駆使した展示に加えて、体験要素とアミューズメント性を取り入れることも重要となっている。当たり前だが、魅力的な取り組みがなければ、お客は満足しないのである。
近年は地域振興や観光振興に文化財の力を活用する国の政策が加速している。文化庁も観光・産業・まちづくり等との連携を強化すべく組織替えの予定だ。公立博物館もその中核施設としての期待が高まっている。「運営」から「経営」へと、公立博物館の意識改革は待ったなしである。
大野城心のふるさと館館長 赤司善彦(あかし・よしひこ)
1957年福岡県生まれ、九州国立博物館展示課長、福岡県教育庁文化財保護課長などを経て今年4月から大野城心のふるさと館館長。
=7月12日西日本新聞朝刊に掲載=