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【ゲストコラム】美術ライターの橋本麻里さんが語る《ラスコー展》の魅力

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アルトネ編集部
2017/05/24
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今から2万年ほど前に、フランス南西部のヴィゼール渓谷で発見された、クロマニョン人が描いた壮大な壁画が『ラスコー洞窟壁画』です。7月11日から九州国立博物館で開かれる「世界遺産 ラスコー展」に合わせて、ラスコーの洞窟壁画の何が素晴らしいのか、美術ライターであり永青文庫副館長の橋本麻里さんにその魅力をご紹介いただきました(編集部)。

 

再現される洞窟壁画の展示イメージ

 

人間と芸術の、ロング&ワインディングロード。

私がフィールドとしている日本美術と、フランス・ラスコーの洞窟絵画。東西に1万キロも離れた両者にはあまり接点がなさそうに思えるが、昨年まで非常勤講師として担当していた大学での日本美術通史の授業では、旧石器時代から縄文時代までに、毎年かなり長い時間を費やしていた。以後の長い造形芸術の歴史をたどるにあたって、「ars(術)」というラテン語を起源に持つ「artifact」、すなわち人間の手が作り出された「人工物」から、見て・感じるために作られた造形芸術=「art」へのグラデーションの間に、どのようなものたちが生まれていったのか、美術史を選択する学生にとって、自明のものである造形芸術をいったん客観視した上で、あらためて考えてほしかったからだ。そういう意味で、この「ラスコー展」に出展されている洞窟絵画の顔料や女性型の立像、動物像などは、美術史の東西や古今を云々する以前、より広く、人類にとっての美とは何かを考えるための、よすがとなる展示物ばかりだ。

左《角を持つヴィーナス(レプリカ)》右《狩人(レプリカ)》©Musée d'Aquitaine-Lysiane Gauthier, Mairie de Bordeaux



そして巡回展のスタートは、東京・上野の国立科学博物館から。たとえば学校教育において、図工と理科は縁の薄い教科と考えられがち(少なくとも小学生当時の自分の認識はそうだった)だが、私自身はレース編みのような放散虫の骨格から、ひとつとして同じ形のない雪の結晶、黄鉄鉱の規矩正しいキューブ、宇宙の彼方で渦を巻く星雲まで、自然界に存在するものや現象にも、抗いがたい美を感じている。なるほど、そもそも人間という存在自身を生み出した自然とそれを律するルールに、私たち自身が価値観を規定され、美しいと評価するのは当然かもしれない。始まりが自然にあったとして、ではその桎梏を破り、反自然、反人間的なところに美は生まれ得ないのか、あるいは人間の尺度ではそれを美と認識できないのか。

日本とフランス、道具と造形芸術、自然と人為。芸術の始まりへと迫るこの展覧会では、「美術好き」「科学ファン」を自認する人ほど、日頃「当たり前」としている思考の枠組を外し、展示品と虚心に相対することで、人間とはなにか、美とはなにか、という根源的な問題に思いを馳せてほしい。
 

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