〔追悼〕人間国宝
中島宏展
ー永遠の青磁ー
2019/03/16(土) 〜 2019/05/06(月)
09:30 〜 18:00
佐賀県立美術館
2019/04/19 |
ずらりと並ぶ大物の壺や鉢からは過去の1ページに収まることを拒絶するようなみずみずしさと生命感がほとばしっていた。昨年3月に亡くなった陶芸家を追悼する回顧展。「中島ブルー」と称される独創的な色合いと器形の多彩さは、今もなお後進に刺激を与え続けている。
焼き物の最高峰とされる青磁を生涯のテーマに定め、高みに向かって果敢に挑み続けた人間国宝の中島宏。陶芸の世界に足を踏み入れた時期の白磁、自身の陶芸の確立を意識した青磁、さらには自由奔放な造形を試みた晩年の作品から見て取れるのは、たゆまざる挑戦の軌跡だ。
青磁創作に向き合う求道者ぶりを伺わせるのが、初公開となる初期作品の「青磁竹鳥文陶額」だ。ヘラ彫りで竹林を楽しげに飛ぶ鳥の様子を描いた陶壁は中島の絵心があふれる一方、その後に取り組む青磁からは具体的な文様が無くなったこととのギャップを感じさせる。佐賀県立九州陶磁文化館の鈴田由紀夫館長は「青磁を極めるために得意な絵を封印し、修業にまい進したストイックさが伝わる」と指摘する。
30代半ばに静の美ともいえるゆったりとした形の青磁壺で高い評価を得るが、ここからさらに脱皮を重ねる。40代を迎えた1980年代初めの作品には胴部に段上の線彫り文様が施され、動きのある表現が生まれた。中国の青銅器に触発され、釉薬の表情から造形へ深化した80年代半ばからは、力強く隙のない文様を加えるようになった。
会場を一覧して胸に迫ってくるのは、安定よりも常に理想を求めた中島の気迫だろう。50代後半から60代前半の時期に当たる90年代後半から00年代半ばの作品は、一人の作家とは思えないほど変化に富む。褐色の胎土(たいど)に青磁釉を大胆にひしゃく掛けした「青瓷釉彩露胎壺」(2006年)は、ライフワークとして収集してきた地元の古武雄にみられる表現技法に通じる。
趣味や幅広い交友関係など、素顔に迫る展示にも注目したい。陶芸の道に強くひかれるきっかけとなった兄の均や、人生の師と仰いだ世界的な陶磁史研究家で陶芸家の小山冨士夫、十三、十四代の酒井田柿右衛門や今泉今右衛門らの作品が並ぶ。
権威や既成概念を嫌い、究極の美を求めて独自の研究と試行を重ねることで生みだされた中島青磁は、実は多くの人に出会い、そのまなざしに緊張し、励まされて生まれたといえば言い過ぎか。豪快と繊細、自信と不安の葛藤こそが創造の源泉だったのかもしれない。鋭さを外から美しく抑え込んだ形と、深い青をたたえた磁肌を見ながら、そう感じた。(佐々木直樹)=4月2日 西日本新聞朝刊に掲載=
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