富野由悠季の世界 -ガンダム、イデオン、そして今
2019/06/22(土) 〜 2019/09/01(日)
09:30 〜 17:30
福岡市美術館
2019/07/12 |
「機動戦士ガンダム」(1979年)「伝説巨神イデオン」(80年)「戦闘メカ ザブングル」(82年)など数々のオリジナルアニメーションの総監督を務めた富野由悠季(よしゆき)氏の活動と作品に込めた主張を紹介する「富野由悠季の世界」展が、福岡市中央区大濠公園の市美術館で開催中だ。9月1日まで。
最新作「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014年)まで「ガンダム」シリーズの口火を切った「機動戦士ガンダム」のテレビ放映開始40年を記念した。
暗幕をくぐって会場に入ると、約8分間にまとめた名場面集が壁に映し出されている。不動の人気キャラクターであるアムロ・レイとシャア・アズナブルの戦闘場面だけではない。家族の葛藤、ラブシーン…。正義と悪が一瞬で変転するなど複雑で奥行きのある人間ドラマを描く富野ワールドへ一気に引き込まれる。
展示は「宇宙(そら)へあこがれて」「魂の安息の地は何処(いずこ)に?」などテーマごとの6部構成。巡回展を開催する全国6美術館の学芸員7人がテーマや作品を分けて担当した。いずれも熱烈な「富野ファン」「ガンダム愛」を自任する。
名場面集を見終えた来場者は不思議な写真に出合う。富野氏の父・喜平氏が第2次世界大戦中、研究と開発に当たった戦闘機搭乗員用の与圧服だ。どこか宇宙服に似た姿。富野氏は「ガンダムなどの物語のベースになった写真」と語る。
展示はポスター、セル画、イラスト原画、「ガンプラ」と呼ばれたプラモデルなど約三千点。富野氏直筆の企画メモや絵コンテなど貴重な資料も満載だ。中でもアニメーターやメカニカルデザイナーの各種設定図に富野氏が書き込んだ「注文」や「指摘」は必見だ。
「ファッションと機能を一緒くたにしない!」「ファッションでなく機能が優先する事例を見抜かなくてはいけない」「物が複雑化しすぎると故障の原因を内在させすぎることになる!」-これがメカ1カ所に対する「駄目出し」である。
富野氏の掲げる「嘘(うそ)八百のリアリティー」の一端を見た思いがした。富野氏は「舞台設定など細部は虚構であっても、全体としてリアリティーがある。子どもが見るものであればあるほど、うそをついてはいけない。子どもだましは全部排除することを徹底的に意識した」と語る。
そこがファンを引きつけてやまない理由だ。巡回展のトップを切る福岡市美術館には内外から多くのファンが訪れる。広島県福山市の男性(53)は「富野監督がスタッフとともに作品を丁寧に作り込んだことが分かった」と感想を話した。
福岡市美術館で担当する山口洋三学芸係長(49)は「富野監督は作家意識が強く、作品に主張を織り込んでいる。芸術性と商業的成功を両立させる道も切り開いた。文化の一角を占めるほどに成長したアニメは美術館も無視できない存在になった」と評す。あなたも会場で富野作品の奥深さを目の当たりにするだろう。(文・大西直人、写真・吉留常人)=7月4日 西日本新聞朝刊に掲載=
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