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死を思わせ 突き付ける生 長崎でC・ボルタンスキー回顧展 【コラム】

2019/12/26 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

フランスを代表する芸術家で、現代美術の巨匠クリスチャン・ボルタンスキー(75)は、死を思わせる不吉なイメージを、一貫して作品にまとわせてきた。電球やポートレート、ブリキ缶、古着などを素材とした作品群は、人の記憶や生の痕跡を呼び起こす再生の装置でもある。自らを「空間のアーティスト」と呼び、空間の細部にこだわり抜いた展覧会場に入ると、鑑賞者は光や音による五感への刺激にさらされ、ボルタンスキーの世界を体で味わうことになる。 

長崎で回顧展を開催中のクリスチャン・ボルタンスキー

日本国内で過去最大規模となるボルタンスキーの回顧展「Lifetime」が、長崎県美術館(長崎市)で開催中だ。活動初期から最近の映像インスタレーションまで、半世紀に及ぶ創作の軌跡を概観する。
その序盤の空間には、代名詞ともなった1980年代の「モニュメント」シリーズが並ぶ。子どもの顔写真を、祭壇のように並べた写真フレームと一緒に壁に貼り付けた。暗闇の中で、あどけない笑顔が電球に照らされる。宗教性を帯びた空間は神聖な祈りの場を想起させ、「死」を思ってしまう。同時に、彼ら、彼女らが確かに存在したことの証明でもある。

《モニュメント》1986/作家蔵ⓒChristian Boltanski/ADAGP,Paris,2019


ボルタンスキーは1944年9月、ナチスの占領から解放された直後のパリに生まれた。父はユダヤ系で、占領期には床下に隠れて生活していた。後に両親を訪ねて来た強制収容所から逃れた人々から聞かされた話は少年の心にトラウマとなって残った。骨つぼを暗示するブリキ缶の上に、輪郭をぼかして個性を消し去ったようなポートレートを置いた「保存室(プーリム祭)」に代表される一連の仕事については、非道な大量虐殺であるホロコーストの問題に関連付けて解釈されることが多い。

黒い衣服を積んだ「ぼた山」(右)と、「発言する」を構成する人形


会場の中ほど、黒い衣服を積み上げた「ぼた山」(2015年)のそばに、黒いコートを着た人形群の作品「発言する」(05年)がある。人形に近づくと「ねえ、1人だったの?」「聞かせて、苦しんだの?」と音声が流れる。別の人形も問いを発する。「ねえ、聞かせて。一瞬だった?」「ねえ、あなたは飛んでいったの?」
この組み合わせで思い起こすのは炭鉱事故だ。衣服の山を魂の抜け殻とすれば、「ぼた山」は事故犠牲者の墓標。人形が発する問いは、犠牲者に向けられているかのようだ。「芸術作品は見る人が完成させる」とするボルタンスキーの言を体現した空間である。
さらに、会場を進むと、耳に入ってくる鈴の音が次第に大きくなる。出口近くに設置された映像からだった。
「アニミタス(チリ)」(14年)は、13時間に及ぶビデオ作品。先端に風鈴を取り付けた細長い棒が、南米チリの砂漠に無数に突き立っている。風鈴の配置は、ボルタンスキーが生まれた日の星座を表しており、風に揺れて響く涼やかな音も相まって、死よりも生の色が濃い。自身も「ラストは楽観的。喜ばしく、落ち着いた気持ちになるだろう」と語っている。
自らを「空間のアーティスト」と呼ぶボルタンスキー。「作品は同じでも、空間が違えば全く違う展覧会になる」と言うように、展覧会そのものが、独立した一つの作品となっていた。

ボルタンスキーの回顧展は、近年、世界各地で企画されている。「生きているうちに回顧展をする方が死んだ後にされるより良い」と語る巨匠は、自身の行く末に何を見ているのか。
大阪、東京と巡回し、最後の国内展示会場となった長崎は被爆地でもある。長崎の展示会場を訪れたボルタンスキーは「長崎の悲劇にささげる作品」を構想しようとしたが、「すぐに諦めた」と語った。
「外から来た人間が語るのはあまりに安易。長崎のアーティストが作るべきだと考えた」。地元の若い世代に巨匠が託したメッセージなのかもしれない。(諏訪部真)=12月16日西日本新聞朝刊に掲載=

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