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【ARTNEインタビュー】ルーブル美術館特別展 ルーヴルNO.9 総監修者に聞く

2017/04/27 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
本展総監修者のファブリス・ドゥアール(右)とセバスチャン・グネディグ(左)

4月15日(土)から福岡アジア美術館で開催されている展覧会「ルーヴルNO.9~漫画、9番目の芸術~」は、才能にあふれた日本の漫画家とフランスのバンド・デシネ(フランス語圏の漫画のこと)の作品を展示することによって漫画を新たな芸術表現として紹介する意欲的な展覧会です。

今回、本展覧会の総監修者でルーヴル美術館文化制作局出版部副部長のファブリス・ドゥアール氏と、雑誌社「フュチュロポリス」編集長のセバスチャン・グネディグ氏に本展覧会に関するインタビューを行いました。(編集部)

Q.福岡では、バンド・デシネと「漫画と芸術表現」をテーマにした展覧会を開催するのは初めてになりますが、本展覧会を開催するにあたり、福岡の会場に来られる皆さまに一番伝えたいメッセージはなんでしょうか?

(ドゥアール)

日本の「漫画」と、「バンド・デシネ」の表現は基本的に変わらないと思う。ヨーロッパ、日本、そして他の文化圏で生まれているコミック、そのような表現はすべて※「9番目の芸術」であると考えている。

この「9番目の芸術」は、独特の芸術であり、そして作家によってもそれぞれ異なったフォーム(形式)に沿って独自の表現を行っている。

福岡のみなさまにお伝えしたいのは、「9番目の芸術」とは、「絵によってのみ表現されていく物語」であること。作品解説などの説明によってではなく、まず作品、絵を見て感じていただきたい。

※芸術の分野を「建築」「彫刻」「絵画」「音楽」「詩(文学)」「演劇」「映画」「メディア芸術」に分類した上で、「漫画」を第9番目の芸術に位置付けるもの。

 

(セバスチャン)

今回取り上げている漫画/バンド・デシネの作家は世界的にも知られている方々ばかりだ。そして世界中の人たちが受け入れることができ、共通で理解することができる表現であると考えている。そして、日本は漫画では世界一の国といえる。ぜひ喜びをもってこの展覧会を楽しんでほしい。それぞれの作家は全く違う手法で漫画を表現しているが、みんなが優れた才能を持った作家たちばかりだ。

 

Q.芸術表現としての漫画/バンド・デシネは、将来においても発展していく表現形態とお考えでしょうか。「絵」と「文字」が組み合わさって物語を紡いでいく形式としての「漫画」の可能性についてお聞かせください。

(ドゥアール)

漫画/バンド・デシネは「絵画」、すなわちグラフィックによるイメージ表現に、「文学」、すなわち文章を組み合わせた、複数の芸術分野にまたがる表現方法だと言える。異種を組み合わせたハイブリットな芸術とも言えるかもしれない。今後はデジタルという技術によって表現方法が変わっていくということも十分に予想される。「音」が追加されるということでも表現が変わるし、コマ割りによる動きについては「映画」に近づいていくかもしれない。しかし、物語を表現するという点については変わらないだろう。表現していく素材は発達していく中でも、作家は常に「何かを語りたい」という欲望のもと、表現していくからだ。さらに言えばバンド・デシネを表現するメディアとして、本も無くならないと思う。本にはオブジェとしての要素もあるからだ。

インタビューを受けるドゥアール氏(右)とグネディグ氏(左)

 

Q.福岡展が開幕する直前に出展作家のひとりである谷口ジロー氏が急逝されました。谷口さんに対し、哀悼のメッセージをいただけますか。

(グネディグ)

本プロジェクトのために、谷口ジローさんを1か月間フランスにお招きし、ルーヴル美術館を訪問してもらった。谷口さんは好奇心旺盛で、才能にあふれた、とてもすてきな人だった。谷口さんに本プロジェクトに参加いただいたことは、私たちにとってとても幸運なことであり、同時にとても光栄なことでもあった。

(ドゥアール)

最後にお会いしたのは東京展のオープニングの時だった。会場で展示されている作品が、彼の最後の作品のひとつとなったが、谷口さんのこれまでの作家の軌跡を辿るような作品であったと思う。このような作品を出版できたことを誇りに思うと共に谷口さんに感謝したい。

 

Q.本展に参加している作家はそれぞれ個性が全く異なりますが、このプロジェクトを進めるにあたり、なぜこの作家たちに作品を依頼されたのでしょうか。

(グネディグ)

本プロジェクトに参加する作家は、ファブリスと私の二人で選んだが、当初より全く個性の違う作家を選ぼうと考えた。そして日本の作家にも参加してもらうことについても二人とも全く考え方は同じだった。

参加作家の選択については、オリジナリティがあって、作家になるための経緯も違う作家をチョイスした。その上で、作家に対しては全く自由に制作を託した。彼らがそれぞれに建物だったり、美術だったりと、各々のテーマを独自にみつけ、制作に取り組んだ。

(ドゥアール)

ルーヴル美術館は、非常に長い歴史と、広大な地域の作品や考古物を多岐に渡り収蔵している。私たちは本プロジェクトによって生まれる作品を、ルーヴル美術館を映し出す「鏡」にしたいと思ったんだ。ルーブル美術館の持っている多様性を表現するにはできるだけバラエティにとんだ作家たちに参加してほしいと考えた。今後は、アメリカのコミック作家たちにも依頼していきたいと考えている。

 

Q.最後の質問です。

日本でも、漫画を芸術表現として認めていく機運が少しずつ出てきましたが、漫画はあくまでも娯楽で、芸術とは別のジャンルであるという意見がまだまだ主流かと感じています。マンガを芸術として考えることの大切さについて、どうお思いになりますか。

(ドゥアール)

これまで、漫画と日本の他の芸術分野の違いを意識したことが全くなかった。なぜなら、私は日本の漫画を含めたバンド・デシネの作家を全く区別なく芸術表現として考えているからだ。ただし、芸術性を持たずに作品を描いているバンド・デシネの作家もいる。画家のなかにも趣味として絵を描く人もいれば、芸術作品として絵画を描く作家もおり様々だ。漫画も同じことだと思う。

私はヨーロッパの人間だから、日本文化の中で、漫画と他の分野の芸術に感じる違いについて理解ができないのだろうね。

(グネディグ)

編集者として話をさせていただくと、本プロジェクトをスタートする際には周囲からなかなか理解が得られず、大きな抵抗があったことも本当だ。なぜなら、バンド・デシネという分野はいままさに成長の過程であり、発展途中の分野だからだ。福岡にも北九州市漫画ミュージアムができたように、今後、漫画が芸術表現として認知され、他の分野の芸術と共に展示されるような時代が来ると思う。

インタビューを通して感じたことは、お2人の漫画/バンドデシネに対する揺らぎないリスペクトだ。そして、彼らが、時代や技術がどんなに変わろうと、絵画と言葉を組み合わせて物語を紡いでいく漫画という表現は、文化や地域を超えて発展していくと確信していたのが印象的だった。

ぜひ、本展覧会を見て、漫画作家によって映し出された「ルーヴル美術館」の姿をご覧いただきたい。

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