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【学芸員コラム】ルーヴル美術館による漫画プロジェクトとは?

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アルトネ編集部
2017/04/17
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福岡アジア美術館で開催される『ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9 〜漫画、9番目の芸術〜」』。ルーヴル美術館と漫画?と不思議に感じる組み合わせの秘密について、本展覧会プロデューサーの脇田さくら氏に語ってもらった。(編集部)

松本大洋『ルーヴルの猫』
©MATSUMOTO Taiyou / Shogakukan / Futuropolis / Musée du Louvre éditions

 

所蔵品は55万点に上り、総面積は約60,600㎡、年間約900万人が来場する世界最大級のルーヴル美術館。最も有名な絵画の一つである『モナ・リザ』や、最も有名な彫刻の一つである『ミロのヴィーナス』をはじめ、ミケランジェロ、ドラクロワ、ダ・ヴィンチ等々の作品はあまりにも有名ですが、ルーヴル美術館には、先史時代から19世紀までの様々な美術品35,000点が展示されています。

その歴史を遡れば、12世紀に要塞として建設されて以来、長きにわたり歴代フランス王の宮殿でありました。そして17世紀末には、ルーヴル宮殿に、王立の絵画彫刻アカデミーが収容され、18世紀のフランス革命下にルーヴルは解放され、1793年に美術館として開館、新たな歴史をスタートしました。

その長い歴史の中で、ルーヴルは様々な芸術と連携し、いつもその時代の優れた芸術家たちを招待し、表現の場を提供してきました。絵画や彫刻はもちろん、建築、音楽、映像等、様々なジャンルの芸術にその門戸を開いてきたのです。そして21世紀、フランスで第9芸術と言われる「バンド・デシネ(=漫画)」に扉を開きました。ルーヴルが「漫画」を現代アートとして迎え入れ、本格的にプロジェクトに乗り出したのです。現代最も注目すべき優れた芸術として、ルーヴルが「漫画」を招き入れたのでした。

それが、「ルーヴルBD(バンド・デシネ)プロジェクト」です。ルーヴルは、10年以上前から、日本を含むフランス内外の漫画家をルーヴル美術館に招待し、漫画家たちは何日も、あるいは何ヶ月もルーヴルに通い、独創的かつ自由な表現で各々のストーリーを紡ぎ出しました。そして作家ごとに長編作品を出版し、ルーヴル美術館、台湾、そして漫画の聖地“ニッポン”で展覧会を開催したのです。ルーヴル美術館は、このプロジェクトで、数世紀の歴史を誇るルーヴルに対する新たな視点を構築し、漫画家たちによって新たなルーヴルを創造し、新しいルーヴルのファンを迎えることに成功しました。

特に日本での展覧会は本プロジェクトの集大成とも言える展示で、これまでに参加した仏語圏のBD作家9人に加え、荒木飛呂彦、谷口ジロー、松本大洋、五十嵐大介、坂本眞一、寺田克也、ヤマザキマリといったルーヴルが招いた7人の日本人漫画家の作品を見ることができます。

漫画家たちによる肉筆の生原稿や、作品制作の工程が分かるスケッチ、ネーム、映像といった滅多に公開されない貴重な資料等、300点以上の作品が一挙展覧されます。ルーヴルのコレクションの豊かさ、展示室に宿る人類の歴史、そしてそこに全世界から集う人々、知られざるミステリアスな側面等々、漫画家たちは思い思いのルーヴルを、華やかに、緻密に、コミカルに、怪しく、描きます。そしてその作家たちの創造力が、展示空間一杯に溢れ、ドラマティックで躍動的な類を見ない展覧会となっています。

ルーヴル美術館の持つコレクションの中には、素描・版画部門があり、15万点の作品が所蔵されています。これは世界一のコレクションです。ルーヴル美術館は今回の漫画プロジェクトによって、絵の伝統、作画の実践という伝統を取り戻し、漫画をこのコレクションに結びつけました。そしてまた、ルーヴルは漫画の技法に、古くからある絵と物語の伝統を見出し、その起源は前史時代、古代エジプトまで遡ると評しています。そういった意味でも、本プロジェクトは、その時代の芸術と連携し、過去と現在を結び、国境を超えた相互理解と友愛を生むという、ルーヴルの使命を果たしたと言えるでしょう。

本プロジェクトの総監修者であるルーヴル美術館のファブリス・ドゥアールは語ります。「ミケランジェロもダ・ヴィンチも、この時代に生きていたら漫画を描いただろう」。そして、先日他界された、本展の参加作家である谷口ジロー氏は、「漫画で表現できないものはない」という言葉をこの展覧会に寄せました。

一番身近な現代アート「漫画」とルーヴル美術館のコラボレーションを、お楽しみください。きっと、新たな発見があるはずです。

 

脇田 さくら(わきた・さくら)
本展覧会プロデューサー。東映株式会社入社後、会社広報、映画の興行・宣伝・制作を経て、現在、事業推進部文化事業室にて、国内外の展覧会を手掛ける。

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