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福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2024/10/29 |
「博物館浴」という言葉をご存じですか?
博物館や美術館に行くことが健康やメンタルヘルスの改善につながるという事のようです。芸術鑑賞と健康の関係について研究されている九州産業大学地域共創学部 緒方泉特任教授にお話しを伺いました。
――近年、「博物館浴」という言葉を耳にする機会が増えています。どのような意味なのでしょう。
博物館に行き、芸術鑑賞をすることが健康や幸福感(ウェルビーイング)につながるという考えがもとになっています。
「森林浴」という言葉はみなさん使われていますよね。森林の中に入っていき散策すること、自然に触れることがストレスを緩和するということがデータで示されているように、博物館に行き、芸術作品を浴びることにはリラックス効果があるということがわかってきており、近年ますます世界で注目を集めています。
――その言葉が生まれた背景についてお教えください。
2019年、ロンドン大学が「文化芸術が人に与える影響を調べる」という研究を、50歳以上の住民6,000人を対象に14年間継続して追跡調査を続けたところ「芸術を鑑賞する機会の多い人は、鑑賞する機会を持たない人に比べ、死亡率が低い」という驚くような報告が出ました。
もうひとつ海外の事例ですが、2018年よりカナダのモントリオールでは、患者の健康を改善する医療の一環として、博物館への訪問を処方として出しています。ベルギーでも同様のことが実施されていて、具合が悪いときに博物館へ行くことが医療の一環として認められているのです。
今、博物館という場所が、健康やウェルビーイングと関係深い場所として世界中で注目され、研究が進んでる中で、日本で博物館に関わっている私たちにもできることがあるのではというのが研究のはじまりです。
――一部の博物館ファンだけが行くところというのではなく、リラックス効果を期待できる場所という意味でしょうか。
すべての人の健康と福祉の土壌として機能し、クオリティ・オブ・ライフを上げることのできる場所としても博物館・美術館が評価できるという事ですね。
実際に、鑑賞前と鑑賞後で、ストレス値や血圧・脈拍等を測定したところ、どの年代、職業等の対象者(被験者)もストレス値が下がり、血圧、脈拍も正常値へ近づいたという結果が出ています。鑑賞時間においても10、20、30分程度でも高い効果が得られ、分野においても歴史、美術、民族、考古学、自然史とすべてにおいてリラックス効果が見られたという事が実験で確認されました。
全国には5,700を超える美術館・博物館が存在するのですが、日本国民1人あたりの年間利用回数は1.2回。これまで美術館・博物館というと、知的刺激や学びの場所であり、どうしても敷居が高くなってしまうという側面もありましたが、すべての人が心身ともに健康になる場所であり、社会とも「つながれる場」としても博物館・美術館が活用されるべきであると思っています。
超高齢社会や引きこもり、労働の不安や悩み等、肉体的にも心理的にもストレスを強いる現代社会において、多様性を受け入れ、包摂性のある施設としても機能できるのではないでしょうか。
――現在もさまざまな地域、属性、年齢の方で実証実験を続けていらっしゃると伺っております。現状と今後の展望をお聞かせください。
2024年10月現在、82の博物館・美術館で1,179人の方に「博物館浴」の実験に参加いただきました。芸術という感覚で語られがちな分野に科学を持ち込み、エビデンスを蓄積し分析を重ねることで、より多くの効果がわかるようになればと思っています。
鑑賞対象がどの分野でもストレス軽減効果があるという結果が出ていますが、実験を重ねることで、作品のジャンルによって改善する内容が違うことがわかってくるかもしれませんね。
(アルトネ編集部)
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なお、「ARTNE」編集部は、西日本新聞の脳活プロジェクトと連携して「アートと健康」の分野にも注目していきたいとおもいます。
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