九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  レポート ›  九博で開催中の特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」 記念対談「やきもの王国・九州と近代の皇室」【レポート】

九博で開催中の特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」 記念対談「やきもの王国・九州と近代の皇室」【レポート】

Thumb micro d98022b6fa
秋吉真由美
2021/08/11
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 九州国立博物館(福岡県太宰府市)で開催中の特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」。開催を記念して、宮内庁三の丸尚蔵館・主任研究官の岡本隆志さんと沈壽官窯十五代・陶芸家の沈壽官さんによる記念対談「やきもの王国・九州と近代の皇室」が開かれました。

特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」の会場レポートはこちら

 宮内庁三の丸尚蔵館は平成5(1993)年11月に開館。「皇室に代々受け継がれた美術品のほか、故秩父宮妃のご遺贈品、香淳皇后のご遺品、故高松宮妃のご遺贈品、三笠宮家のご寄贈品が加わり、約9,800点を収蔵しています」と岡本さん。

 宮内省は、明治23(1890)年に美術工芸家の技術の継承を目的に帝室技芸員制度を発足。会場には、20人の帝室技芸員の見事な作品が展示されています。「人間国宝とよく比べられますが、人間国宝は昭和30年から現在までの65年の歴史の中で陶芸家では38名が認定されています。一方、帝室技芸員は明治23年から昭和19年の約55年の間で陶芸家はたったの5人しか任命されておらず、非常に限られた方が任命されたものでした」

旭彩山桜図花瓶
三代清風與平作 明治38年(1905)

 会場でも展示されている、帝室技芸員に明治26(1893)年に任命された京都の三代清風與平作の「旭彩山桜図花瓶(きょくさいやまざくらずかびん)」をピックアップ。

宮内庁三の丸尚蔵館・主任研究官の岡本隆志さん

 「ピンクの地肌に浮彫で桜を施したきれいな作品ですが、本居宣長の『敷島の歌』をモチーフに作った作品ではないかと考えられます。このように一つの花瓶の中に歌の意味を込められたりしているのです」

 

十二代沈壽官の名品に脱帽

 繊細で煌びやか、会場でも多くの人がじっくりと鑑賞している様子が見られた「色絵金彩菊貼付花瓶(いろえきんさいきくはりつけかびん)・色絵金彩菊貼付香炉(いろえきんさいきくはりつけこうろ)」は、薩摩焼の名工である十二代沈壽官によって制作されました。

 籠目を彫った器体に一輪ずつ成形された菊花を貼り付け、色絵と金彩が施されています。「この3点の作品は、十二代沈壽官の作品の中でも極めて異色」と沈壽官さん。「これほど密で立体的、すきまなく色を使うといった装飾性を追求した作品はほかに知りません」

色絵金彩菊貼付花瓶・色絵金彩菊貼付香炉
十二代沈壽官作 明治26年(1893)

 岡本さんによると「この花瓶と香炉は宮内庁にある資料を辿ると、花瓶が2対、香炉が2個契約されていたようです。用途は明治宮殿の装飾用で、明治33(1900)年5月10日、当時の皇太子(のちの大正天皇)のご結婚の式典で、明治宮殿の南溜の間に飾られたと記録が残っています」

沈壽官窯十五代・陶芸家の沈壽官さん

 「僕が見てもどうやって作ったんだろうと思う作品で、絶対挑まなきゃいけないものだろうと思います」と沈壽官さん。「菊の造形は、丸いボタンのようなものを作って、花びら一枚一枚はメスを入れて起こしていく作り方だと思います。薩摩焼は陶器ですから、濡れた状態でないと作業はできません。籠目を掘り、湿り気を持った状態で茎や葉の部分を貼り合わせて行くのでしょう」

 展示では見られない貴重な底部の写真も紹介。「薩摩壽官製」「森田徳二郎作」の銘があります。

写真上が香炉、下が花瓶の底部

 沈壽官さんは「十二代沈壽官という人は、『薩摩壽官製』として自分の名前も書きますが、細工職人の名前を書いていました。映画のエンドロールで監督だけでなく、カメラマンや俳優の名前を出すような感覚です。これを焼き物の世界で行っている人はあまり聞いたことがありません。職人のプライド、仲間を大切にした人なんだろうと思いますね」と話します。

 「それぞれ大変な素晴らしい技術で作られた作品ばかりです。作られて100年近く経ち、ようやく九州で公開される作品もあります」と岡本さん。

 特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」の開催は8月29日まで。職人の技術はもちろん、丁寧な仕事を間近に鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ実物をご覧になってみてください。

 

特別展「皇室の名宝 ―皇室と九州をむすぶ美―」の会場レポートはこちら

公式サイトはこちら

チケットは、ARTNEチケットオンラインで発売中!

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 5b7f61eb8b
終了間近

BASE GALLERY HAKATA
⻄川勝人個展「ノクターン」

2025/03/28(金) 〜 2025/05/20(火)
BASE GALLERY HAKATA

Thumb mini 8f4137e089
終了間近

The ma.macaron Cat Hotel

2025/05/03(土) 〜 2025/05/20(火)
合同会社書肆吾輩堂

Thumb mini 2fac2ea3db

福岡ミュージアムウィーク2025
初めてのベビーカーツアー

2025/05/21(水) 〜 2025/05/22(木)
福岡市美術館 コレクション展示室

Thumb mini 12f2a7f709

第35回九州産業⼤学美術館所蔵品+展 「巴里、ルオー、ザッキン。」 + 「元倉眞琴 集まって住む」関連イベント
アート・トーク「建築がもたらす共同体と孤独」

2025/05/24(土)
九州産業大学15号館102教室

Thumb mini 9ba6134a20

福岡ミュージアムウィーク2025
建築ツアー

2025/05/24(土)
福岡市美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini ffb08805d8
レポート

「うたの☆プリンスさまっ♪」×カード占いの体験型イベント 直観にしたがって結果を楽しんで

Thumb mini 32a8c8b10d
レポート

「手塚治虫 ブラック・ジャック展」が福岡アジア美術館で開幕! 原稿500点以上が並ぶ圧巻の空間で、医療マンガの金字塔、その魅力を大解剖する大展覧会

Thumb mini 25c73f77fc
レポート

デザインが暮らしを豊かにする――もの、ひと、場所、言葉…… 多彩な展示品を通して、今、浮かび上がる‟テレンス・コンラン” 福岡市美術館で大展覧会が開幕

Thumb mini 6e5c51a577
レポート

「黒子のバスケ」の世界を体現した空間世界 連載15周年を記念した初の原作原画展が大丸福岡天神店で開幕!

Thumb mini 95375eb522
レポート

民藝展、テレンス・コンラン展にみる 暮らしの中の豊かさ――鞍田崇さん(哲学者)と中原慎一郎さん(コンランショップ・ジャパン社長)が考え、伝えてくれたこと

特集記事をもっと見る