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俳優、スタッフが一丸となって作り上げた空気感が美術館に現出 青山真治クロニクルズ展【レポート】

2023/12/14 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
青山真治クロニクルズ展入り口には監督が愛用した服が飾られている

 映画「EUREKA(ユリイカ)」などで知られる青山真治監督(2022年3月に死去、享年57)をしのぶ「青山真治クロニクルズ展」は、生前の愛用品や作品のシナリオ、美術デザインの原画などを集めた展示会だ。12月17日まで開催中の北九州市立美術館分館(北九州市小倉北区室町1丁目)の会場に入ってすぐ目につくのは、青山監督がまだ何者でもなかった立教大1年の時に恩師である評論家蓮実重彦さんに提出したレポートである。

 蓮実さんは青山監督の死後に文芸誌へ寄せた「青山真治をみだりに追悼せずにおくために」と題した文章でこのレポートのことをこう振り返っている。

 ―その名を特別に意識していたというのは、彼が文学部の一年だったときに書いた学期末のレポートが、途方もなく優れたものだったからである。それはイタリア映画についての小論だったが、「今まで自分が最も恐怖した映画における『眼』は、小津安二郎のそれだった」と書き始め、「その温かみが恐く、その優しさがまた恐怖を増幅させるのである」と結んでいるように、その「温かみ」と「恐」さ、またその「優しさ」と「恐怖」との弁証法的な記述ともいうべきものを、大学一年の後期のレポートだからまだ二十歳になったばかりの若者がごく自然にやってのけているところに、教師としての余裕を超えたすえ怖ろしさを覚えたものだ。―

 このベルナルド・ベルトリッチ「暗殺のオペラ」について論じた学生時代のレポートをはじめ、会場には映画「Helpless」の初稿となるシノプシス(粗筋)、青山作品の多くの美術を手がけた清水剛さんによるデザイン原画など貴重な資料約200点が並んでいる。

 オープニング式典に訪れた妻で俳優のとよた真帆さんは「映画に命をささげた監督がここに一人いたんだということを感じていただければ」と語ると同時に、映画を作るのにこれだけいろいろな人が携わっていることも体感してほしいとも強調していた。その言葉どおり、まさに俳優、スタッフが一丸となって作り上げてきたのが青山監督の作品群の空気感なのだと実感できる展示になっている。

代表作のポスターや脚本などが並ぶ会場を回りながら
青山真治さんとの思い出を回想するとよた真帆さん

 その空気感に影響を与えているのは映画の撮影地。特に出身地の北九州周辺でロケしたロケ地マップも展示されていて興味深い。展示を見た後にロケ地まで足を伸ばしてみるのも楽しみ方の一つとなるだろう。

 カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞などを受賞した代表作「ユリイカ」の中で、登場人物がこしらえる墓のセットも面白い。今回の展示のために清水さんが再現した。

会場には映画「ユリイカ」で登場人物が家の庭にこしらえる墓のセットも再現されている

 10日に開催されたギャラリートークでの清水さんの説明によると、土まんじゅうの上に金属パイプを立てたその墓について、青山さんはパイプの穴を通る風音にこだわっていたという。映像に劣らず音にこだわる映画監督だったが、それは視覚的な部分にも影響していたようだ。

 「その音のことを考えて発想していくと彼(青山監督)の求めることにたどり着く」。清水さんがこう語ったのが印象に残った。

映画「サッド  ヴァケイション」の舞台となる間宮運送のセットの模型などの前で
青山監督との思い出を語る清水剛さん(右)

 島田雅彦さん原作の「退廃姉妹」は、荒井晴彦さんと井上淳一さんによる脚本も完成し、海外資本で映画化の準備がかなりの段階まで進んでいた。そのデザイン原画も展示されている。

ギタリストでもあった青山真治監督が生前愛用したギター

 眺めていると、本当にこの映画を見たかったと無念な気持ちになるが、惜しんでばかりいてもしょうがない。会場を出たら小倉の角打ちで一杯やろう。「退廃姉妹」の姉妹役を一体誰と誰が演じたのか? そんな風に実現しなかった作品の配役を勝手に想像することを肴(さかな)にして…。そうすることこそが青山真治クロニクルズ展を見た後のシネフィル(映画狂)を自称する者たちの正しい振る舞いのはずだ。

(西日本新聞社クロスメディア報道部、内門博)

※料金等の詳細はこちら。https://artne.jp/event/2309

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