レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展
2018/04/06(金) 〜 2018/06/03(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
大迫章代 2018/04/26 |
16世紀初頭のイタリア・フィレンツェの2大芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロの未完の壁画をめぐる展覧会「レオナルド・ダ・ヴィンチと『アンギアーリの戦い』展~ 日本初公開「タヴォラ・ドーリア」の謎 ~」。前半では、“世紀の壁画競演”の背景について紹介したが、後編は4月7日に行われた五木田聡氏(東京富士美術館館長)の講演会をもとに、いよいよ展覧会の主役、《アンギアーリの戦い》について知るための《タヴォラ・ドーリア》について紹介します。
“タヴォラ家の板絵”という意味の《タヴォラ・ドーリア》は、正式な記録で、1620年ごろにジェノヴァの貴族ドーリア侯爵がトスカーナ大公から譲り受けて以降、1940年ごろまで同家に秘蔵されていた。しかし、同家の破産で競売にかけられ、世界中のコレクターのもとを転々としたあげく、しばらくは闇に消えていた時代もあったのだとか。それを1992年、東京富士美術館が合法的に購入。2012年、イタリア共和国と交流協定を結び、イタリア共和国に寄贈されたおかげで、修復と研究がすすめられ、再び西洋美術史の表舞台にカムバックした。「今回のような展覧会の日本巡回が実現したのもこの協定のおかげ」だと五木田氏。
《タヴォラ・ドーリア》に描かれているのは、レオナルドの幻の壁画《アンギアーリの戦い》の軍旗争奪の場面(当時は人を殺す戦争ではなく、軍旗を奪い合う戦争だった)。この作品を一体誰が描いたのか。可能性として考えられるのは次の3つ。
(1)公開された壁画を観た誰かが残した精巧な模写
(2)後世の誰かが模写を見て作成した複製
(3)レオナルド・ダ・ヴィンチ本人によるもの
レオナルド本人が残した構想ノートやパーツのスケッチにも重なる部分が多く、限りなく本人が構想していた下絵に近いと考えられている存在なのだ。
「最先端の分析技術で、この絵が描かれたポプラの木が、レオナルドの時代のものであることは確認できました。だからと言って、これが本人によるものだという証拠にはなりませんし、どんなに分析を続けても、これが100%本物だと証明することは難しいかもしれません。しかし、この《タヴォラ・ドーリア》に、レオナルドが表現したいと思っていた戦闘画のすべてが実現されていることは確かです。そこにこそ、この絵の真価があるという学者もいます」と五木田氏。
会場には、《タヴォラ・ドーリア》の科学的な分析結果を見ることができるコーナーもあり、気になる部分を拡大して、細部の表現を確認できる。
ちなみにこちらは、《タヴォラ・ドーリア》の画像を分析して制作された立体模型。絵の構造を360度違った角度から見ることができて面白い。
また、五木田氏は「レオナルドの《アンギアーリの戦い》が幻の傑作として語り継がれた理由は、それまでの戦闘画にはなかった、人と馬が入り乱れてもみ合うダイナミックな構図、目に見えない人間の苦悩や、空気の動きまでも感じさせるリアルな表現手法にある」と言う。この絵の登場でその後の戦闘画(騎馬戦画)の図表が劇的に変わったのだとか。確かに、それ以前に描かれたものと見比べるとその変化が分かりやすい。
こちらは、1475年頃に描かれた《ピュドナの戦い》。壮大な戦場の模様を描く一大絵巻だが、《タヴォラ・ドーリア》の軍旗争奪と比べると、平坦で動きのダイナミックさに欠ける。ちなみにこれは、レオナルドが師事したヴェロッキオの工房のもの。若き日のレオナルドも制作に携わっていたかもしれず、《アンギアーリの戦い》の制作に影響を与えた可能性もあると考えられている。
展示では、この《タヴォラ・ドーリア》と共に、当時、壁画の下絵を観た画家たちの模写作品、その影響を受けた後世の画家たちの戦闘画の変遷を通して、幻の壁画《アンギアーリの戦い》の美術史的な価値を浮き彫りにしていく。
こうして見ると、レオナルドの《アンギアーリの戦い》がいかに当時の画家に衝撃を与えたかが分かる。そして、そんな臨場感あふれる戦闘画を描けた理由は、レオナルドがその数年前、軍事技師として戦場を回った経験があり、真の戦場がどんなものかを身を持って知っていたからなのだとか。
ご紹介したのは、ごく一部の予備知識だが、そうした歴史的背景を少し知っているだけでも、展覧会の楽しみ方が全然違ってくる。だから、ぜひとも事前に少しだけ予習をして観に行ってほしい。
また、 「天才ダ・ヴィンチのひみつ」展も同時開催。芸術家としてだけでなく、数学、物理学、土木工学などさまざまな分野で活躍した彼の“万能人” ぶりを精巧な再現模型とともに一覧できておすすめだ。
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