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クロマニョン人の技とセンスに驚く「世界遺産 ラスコー展」【レポート】

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大迫章代
2017/07/31
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フランス南西部で2万年ほど前に描かれたラスコー洞窟。その壁画は、スペイン北部のアルタミラ洞窟壁画と並ぶ先史時代のもの。600頭にも及ぶ色鮮やかで躍動感あふれる動物画で有名だ。2万年も前の後期旧石器時代、すでに高い芸術性を持っていたクロマニョン人。九州国立博物館で開催中の「特別展:世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が見た世界」は、クロマニョン人=原始人という概念が完全に変わる驚きと発見に満ちている。

ラスコー展外観

今回は、本展監修者・海部陽介氏が初日の記念講演会で教えてくれたポイントを参考に、同展会場をレポート。講演会レポートと合わせて、観賞の参考にしていただきたい。

見どころは、大きく2つ。1つ目は、汚染を防ぐため1963年に閉鎖され、今は研究者でも内部に入ることができなくなった謎に満ちたラスコー洞窟とその壁画を1㎜以下の精度で復元したラスコー3(フランス政府公認の世界巡回展)を見られること。2つ目は、ヨーロッパで発見された同時代の発掘品とともに明らかになるクロマニョン人の素顔、その文化度の高さだ。

展示は7章構成で、第1章から第4章がラスコー洞窟と壁画、第5章から第7章がクロマニョン人の時代とその文化に焦点があてられている。

写真は、第2章で展示されているラスコー洞窟の平面図と1/10サイズの模型。

ラスコー洞窟の7つの部屋を1/10サイズで再現した模型。
周囲のガラスケースでは洞窟内で発見された画材や石器が各部屋に展示されている。

洞窟は全長約200m。3つの長い空間から成り、「軸状ギャラリー」や「身廊(しんろう)」、「井戸状の空間」など7つの部屋に分かれている。壁画はこの洞窟の天井、壁一面に描かれていて、部屋ごとに技法やテーマの違いも見られる。まるで、洞窟を自然のギャラリーに見立てて使っているよう。これを見ると、「クロマニョン人はわざわざ洞窟に入り、芸術活動を行なっていた」という海部氏の説にも納得できる。

断面を覗き込んでみるとこんな感じ。人間の模型もあり洞窟の空間とスケールが分かりやすい。

そして本展の最大の見どころ、第4章のラスコー洞窟の実物大壁画のコーナーへ。
ここでは、3次元レーザースキャン技術など最先端の技術を駆使し、髙精度で再現された5つの実物大壁画を見ることができる。再現されているのは、洞窟の中でも傑作が並ぶ「身廊(しんろう)」の壁画群から≪大きな黒い牝ウシ≫や、洞窟の一番深い場所「井戸状の空間」に描かれたミステリアスな壁画≪井戸の場面≫だ(会場には、この謎に迫るタッチパネルコーナーもあるのでぜひチェックを)。本物さながらのスケールで細部まで再現されたこのコーナーに足を踏み入れると、2万年前にタイムトリップしたよう。

手前は≪泳ぐシカ≫
手前は≪大きな黒い牝ウシ≫、奥は≪背中合わせのバイソン≫

「身廊」の壁画には、赤、黒、茶、黄色、紫などの顔料を使った彩色と、石器の彫器を使った線刻の2つの技法が組み合わされている。これは他の洞窟内部には見られない特殊な技法で、ラスコー壁画の芸術性の象徴といえるものなのだが、通常だと分かりにくい線刻が展示ではライトアップで浮かび上がる。2万年前の芸術を、よりリアルに、さらに幻想的に鑑賞できるとっても贅沢な空間だ。


ラスコー壁画はそこに描かれる数百もの動物画で有名だが、クロマニョン人が生きた氷河期のヨーロッパには、マンモスや、オオツノジカ、ケサイなど大型の動物が生息していた。海部氏によれば、そんな動物の骨や角を有効活用して暮らしていたのもクロマニョン人の特徴だそう。象牙の彫刻も多く残っているが、クロマニョン人が使っていた象牙は象ではなくマンモスの牙。展示では本物のマンモスの牙に触れるコーナーもある。

クロマニョン人たちの時代には大型動物たちがたくさん。オオツノジカやケサイの頭蓋骨の大きさに圧倒される。

そして、第6章は本展のもうひとつの要。発掘された道具や装飾品からクロマニョン人の繊細な芸術世界を垣間見ることができる。
ここでは、まずクロマニョン人とそれ以前の原人や旧人との違いが、頭蓋骨や使っていた石器などとの比較で紹介されているのだが、彼らの石器の違いを知っているのと、いないのとでは展示の見方がまったく変わってくるので、ここはぜひ海部氏の講演会レポートを合わせてご参照いただきたい。

そして、クロマニョン人の石器技術が生んだ繊細で精巧な道具や武器、そして装飾品の数々。

≪大型月桂樹葉型尖頭器(レプリカ)≫。石器によるカッティング加工が見事。
トナカイの角に彫られた優雅な彫刻≪体をなめるバイソン(レプリカ)≫
貝殻や動物の歯をビーズとして利用した装飾品や、複雑な装飾が施された道具たち。

どれも、クロマニョン人によって作られた、人類の“芸術のはじまり”とも言える貴重な展示品だが、中でも鳥の骨で作られた笛(写真一番右下)は、海部氏が「東京でも展示したかった」と一番羨ましがっていた九州会場オリジナルの展示の1つ。クロマニョン人がすでに音楽を持っていたことの証明だ。


第7章では、ついに我ら人類の共通の先祖とも言えるクロマニョン人一家にご対面。

見よ、このリアルさ。ここは写真撮影もOK!

こちらは古代人類の復元を専門とするフランスの芸術家エリザベット・デネスが、実際に発見された化石人骨に従い肉付けを行ない、研究上の解釈に基づいて制作した等身大の復元。今にも動き出しそうなほどリアルで、写真を撮ろうとすると、目まで合いそうになる(特にボディペインティングの子どもとは目が合いやすい!)。

写真はイタリアで発見された女性の人骨。頭にビーズの帽子をかぶっている。

海部氏の指摘通り、こんな壁画やこんな装飾品を残したクロマニョン人がオシャレでないわけがない。2万年以上も前から、いや誕生した瞬間から人間(ホモ・サピエンス)は、すでにアーティストであり、我々とほとんど変わらない精神性を持っていたのかもしれない。

2万年前にクロマニョン人が残した壁画や、道具、身の回りの装飾品を通して、人類の芸術の原点に迫る「特別展:世界遺産 ラスコー展」は9月3日(日)まで九州国立博物館で開催中。太古から変わらない人間の創造力、ほとばしるアートの力強さを感じてほしい。

最後に、本展の図録やオリジナルグッズはもちろん、ワインや食材や雑貨など魅惑のフランス物産が揃うグッズコーナーも充実。つい財布の紐が緩んでしまう。

ラスコー展に来て、すっかりフランス旅行気分なグッズコーナー。

 

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