江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/07/05 |
ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。
【第9回】『テオ もうひとりのゴッホ』マリー=アンジェリーク・オザンヌほか著 平凡社
献身的に兄を支えた愛
「ヴィンセントは弟テオなくしてヴァン・ゴッホたり得たろうか? 困難な歳月を、励まし、支え、援助し、力いっぱい抱きとめてくれたこの弟なくして、生活し創作をすることができただろうか?」。この本の冒頭の文である。
兄の名は、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。弟の名は、テオドルス・ヴァン・ゴッホ。兄の名を知らない人はいないだろう。数々の名作を残して悲劇的な死を遂げたオランダの画家ゴッホである。
この本は、ゴッホを陰で支え続けた弟テオに焦点を当てた初の伝記である。二人の外国人研究者の共著で、一九九九年に発刊された「もうひとりのゴッホ」を、絵本作家としても著名な伊勢英子、京子氏両姉妹が全訳して、日本語版として今年テオ生誕百五十年を記念して発刊されている。
ゴッホが弟テオに書いた手紙は、六百五十余通が現存していると言われているが、今回未公開(出版当時)の書簡九十八通を初めて公開し、それを文中に頻繁に挿入して、二人の生々しい心情を投影しながら、十九世紀末ヨーロッパの激動の美術界に身を投じ、やがて二人共悲劇的な最期を遂げるまでの道のりを克明に描いている。
手紙の文面で見る兄弟の心理的葛藤(かっとう)は凄(すさ)まじく、辛辣(しんらつ)な言葉が飛び交うたびに、二人は抜きさしならない深い絆(きずな)で結ばれていく。
画廊で働くテオは、三百㌵の月給から半分の百五十㌵を生涯ゴッホに送金し続け、家族の面倒もみる。ゴッホは描いた絵を「ぼくらの作品」と呼び、すべてテオに送り届ける。それでも生涯に売れたのは一点だけだった。
ゴッホの最期は何度読んでも胸を締めつけられる。絶望と孤立の中で、耳を切り落とし、自ら精神病院に入り、胸に銃弾を撃ち込んで自殺をはかる。駆けつけたテオに「泣かないでくれ、こうすることがみんなにとってよかれと思ったのだ…」と言って、弟の腕に抱かれて息を引き取っていく。
ゴッホを失ったテオは、遺作展を開こうとするが誰も相手にしない。やがてテオも錯乱状態になり、ゴッホの後を追うように、半年後精神病院で悲惨な死を遂げる。三十三歳であった。あとには若い妻と、兄ゴッホの名を付けた生まれたばかりの息子が残されていた。
兄を心から尊敬し、ゴッホを支え続けた弟テオの献身的な愛を描くことで、ゴッホの孤高の姿が一段と輝きを際立たせている。 (画家・菊畑茂久馬)
▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。
=2007年10月28日西日本新聞朝刊に掲載=
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