九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】山出淳也 アート、まちに出る 11

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 11

Thumb micro 6f691dcb2f
山出淳也
2021/01/12
LINE はてなブックマーク facebook Twitter


新手の詐欺師と思われる​

 帰国した僕はアベリアに電話した。別府市在住者で、かつ連絡先を知っている唯一の知り合いだ。

 僕にも増して突飛(とっぴ)な性格の彼女。「私は別府になりたい」と言う。「この町の温泉は誰をも分け隔てなく受け入れる。私は別府そのものにいつかなる」と言うのだ。そんな彼女は町中が知り合いだらけ。歩くたびに呼び止められ、その都度長話を始めるものだから、100メートル進むのに1時間かかることもザラである。

 僕は「別府を特集したあの記事を読んだ。別府でアートイベントを開きたい。小さなことから始め、数年はかかるだろう。多くの人に理解してもらい、実現を目指したい」と話した。彼女は記事に登場していた方々をはじめ、町のキーパーソンや若者たちを紹介してくれた。

 そんなある日、別府のまちづくりに関わる方が集まる拠点のサロン岸に向かった。部屋のほとんどを占める大きなテーブル。その上の飲み物は全てセルフサービス。皆ここのママの人柄に惹かれて集まっている。

 どんなことをしたいのかを説明した。ちんぷんかんぷんという空気が漂う。何となく誰かが「良さそうな企画だね」と心にもないことを口走る。皆大人なのでウンウンとうなずくが、怪訝(けげん)な表情は隠しようがない。どこに行っても手応えは同じようなものだった。画塾のセンセイからは「やめちょけ」と一蹴された。

 そんなある日、ツルタさんに会いに行った。記事に出ていた、老舗ホテルの経営者だ。「へーへー。面白いね。これはいけるかもしれない」。一通り説明を終えると、僕の顔を見てそう言った。その言葉に救われた。そして、この日からツルタさんは僕のまちづくりにおける師匠になった。

 数年たち「新手の詐欺師だと思ってたけどなぁ」と、あの晩、サロン岸に同席していたノガミさんは笑いながら言う。ツルタさんになぜあの時、詐欺だと思わなかったのか聞いたことがある。

 「簡単だよ。詐欺が数年も待てるわけがない」。その通りだなと思った。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月17日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 59ed649e02
終了間近

大森記詩展
SCALESCAPE:ホビー/アート/ジャパン

2025/09/13(土) 〜 2025/10/12(日)
田川市美術館

Thumb mini 5fd1166b48
終了しました

特別展 「法然と極楽浄土」関連イベント
トークショー 仏像の世界へようこそ! はなさん と学芸員がナビゲートする極楽浄土ツアー

2025/10/12(日)
九州国立博物館

Thumb mini 5c6d741256

瀬戸口朗子 境界でめぐり逢う 

2025/10/11(土) 〜 2025/10/25(土)
EUREKA エウレカ

Thumb mini 4ef160e33a

企画展
人形アニメーション創成期の人形作家 小室一郎展

2025/10/11(土) 〜 2025/11/09(日)
高鍋町美術館

Thumb mini d31fc9aa99

売茶翁生誕350年特別展
売茶翁と若冲

2025/10/07(火) 〜 2025/11/24(月)
佐賀県立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 34d2f10e92
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 10

Thumb mini 8310e24943
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 9

Thumb mini 26ed61aaf6
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 8

Thumb mini 00935c1da7
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 7

Thumb mini ee134af791
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 6

特集記事をもっと見る