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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 16

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山出淳也
2021/01/28
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シマブクさん

 シマブクさんは、世界を旅している。神戸で育ちサンフランシスコで学び、ベルリンを経由して那覇に住み、世界中の展覧会に招かれる。僕がとても尊敬するアーティストの1人だ。

 シマブクさんの作品は、いつもヘンテコなもので、とても文章で説明できる自信がない。旅しながら出会う人との不思議な関係性や交わす言葉が、彼のフィルターを通り作品へと昇華する。想像の旅へと誘うような彼の作品は、心の深い部分を優しくタッチする。この人は魔法使いだなって、時々思う。

 ある時、シマブクさんは片方の眉毛を剃(そ)って旅をしていた。22年前の秋、福岡でアーティスト仲間のフジさんと会い、彼にも眉毛を剃ることを勧めた。そして、フジさんはシマブクさんを連れて僕の展示会場に訪れた。そんなことでフジさんは今ここにいる理由を「片方の眉毛を失ったから」と書き残したのだ。

 僕とシマブクさんは、その後、国内外いろんな場所で遭遇した。同じ展覧会にも呼ばれた。その時彼はタコと共に旅をする映像作品を展示していた。

 数年前、彼は宮城県石巻の浜辺で作品を発表した。辺鄙(へんぴ)なところに車を止めて、20分程度かけて木々で覆われた崖を下りる。途中、視界が開けた場所から浜辺が見えた。そこには100人くらいいただろうか、皆すくっと立って海を向いていた。どの人も痩せこけている。やっと浜辺に着き、上から見えた場所に視線を向けると、立っていたのは、全て木だということに気がつく。その名も「起こす」という作品だった。浜辺に流れ着いた流木を起こしては波で倒れされ、また起こす。一連の作業に想いを馳(は)せ、ものすごく心が揺さぶられた。生きるってなんなのだろうと強く思った。

 そんな彼は現在、何度となく大分県に足を運んでいる。国東半島のある山に作品を恒久設置するためだ。シマブクさんは呑(の)みながら、こんな話をしてくれた。「もしアーティストじゃなかったら、ツアーガイドになっていただろうな」

 僕は「シマブクさん、今もそうだよ」と心の中で呟(つぶや)いた。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月24日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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