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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 24

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山出淳也
2021/02/25
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混浴温泉世界

 芸術祭のディレクターを引き受けてくれたセリザワさんと、毎晩のように話をした。

 何度も別府に来てもらい、町を歩き、夢を語り合った。一緒に温泉にも入った。セリザワさんは「人の体のほとんどは水でできている。一緒にお風呂に入ったらそれぞれの体の水分があふれ出し、互いに吸収し合う。そう考えると、ほんの数パーセント、今僕はヤマイデさんになっているのかもしれない」。そんなことを話してくれた。

 芸術祭のタイトルは『混浴温泉世界』に決まった。

 僕の想(おも)いを理解し、セリザワさんが名付けてくれた。大地の恵みであるこの町の温泉は、性別も国籍も宗教も肌の色も、誰をも差別する事なく受け入れる。そこに居合わせる者たちは、武器も持たず丸裸でひと時を共有する。熱さにのぼせ、やがて皆ここを立ち去るが、新たな人々が集うのを待ち、この場は守られる。そういう多文化が共生する理想や、人がこの世に生まれ去るまでを、この町と重ね合わせた。

 だけど、現実は厳しい。

 プロデューサーである僕は、ほぼすべての資金を調達しなければならないが、どこに行ってもこの意図を説明するのに一苦労だった。門前払いされることを想定し、タイトルを隠した。「アートイベントを開催したい」とだけ伝えて資金援助を求めるが、ほとんどは「アートはよくわからない」と、そこから先に進まない。こんな難しいタイトルにするんじゃなかったと後悔した。

 ある時から諦めて、「混浴温泉世界という名称で…」と話すと、誤解して興味を持つ人、目を背けるご婦人、とにかく反応はしてくれる。そして僕は想いを伝える機会を得る。「アートはよくわからんが、その考え方には共感する」。そう言ってくれる方が現れ始めた。正直に話さなければ伝わらない。そんな当たり前のことを思い出した。

 タイトルも開催期間も会場も、そしてアーティストもほぼ決まった。必要な資金はまだ足りないが、「なんとかなるはず」。そう言い聞かせ若い数名のスタッフと共に朝から晩まで駆けずり回った。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(12月4日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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