江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/03/02 |
「難しいことをしろ」
2009年春。ついに芸術祭は現実となる。
開幕の数週間前、続々と世界中から別府市にアーティストが集った。経験も資金力もないが、実現させたいという僕たちの意志に、彼らの多くは強く共感してくれた。
その1人がサルキスさんだ。70歳を超えた彼はアート界の伝説的な存在である。僕もセリザワさんも、真っ先にイメージしたアーティスト。サルキスさんと親交のある方を介して、ダメもとでオファーした。今振り返ってみると、取り繕うことなく真っすぐに想(おも)いを伝えることが、良い結果を生んできた。
別府を体験し、作品を構想してもらいたいと伝えた。数カ月後、彼は別府に到着した。雑誌の中でしか見た事がなかったサルキスさんが目の前にいる事実に僕は興奮していた。
「航海士」「キャプテン・サルキス」とも呼ばれる彼は、空間全体を使い、時間を旅するようなイメージを創(つく)る。ロケハンを重ねる中で彼は海岸近くの神社に目を留め、ここにいくつかの作品を設置したいと言った。場所柄、とても難しいリクエストだったが、関係者と協議を積み重ね、僕は手応えを感じていた。
しかし、いよいよ明日から作業だというタイミングで、制作にストップがかかる。懸念は現実となり、そして覆せないことも理解した。だけど「サルキスさんになんて言おう。がっかりさせられない」と思い、あれやこれやと伝え方を考え、策を練った。でも、いいアイデアなんて浮かびようもない。僕は包み隠さず全て打ち明けるしかできなかった。
サルキスさんは「正直に言ってくれてありがとう。だからこそ、君たちを信頼している。町を舞台にしているんだ。難色を示されるのは当然だ。別の作品を考えればいい」と受け入れてくれた。そして、「一つ大切なことを伝えるよ」と、こう語りかけてくれた。
「君は今回以上にもっと難しいことにチャレンジし続けなさい。安全だとか、簡単だとかを判断基準にしては君の成長はない。君が成長を諦めることは、未来への可能性を裏切ることでもある。難しいことをしろ。それを続けるんだ」(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月7日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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