九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  連載記事 ›  【連載】山出淳也 アート、まちに出る 29

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 29

Thumb micro 6f691dcb2f
山出淳也
2021/03/16
LINE はてなブックマーク facebook Twitter

時を超えていく

 物事は置かれる場所によって、その意味さえも変化する。

 多くの人にとっての美術・芸術というものと、僕がイメージするアートは多分違っている。ずいぶん荒っぽい言い方だけど、今を生きるアーティストにとって唯一のすべきことは、「アートとは何か」を考え、提示することだ。

 今から100年ほど前、マルセル・デュシャンという芸術家によって、新品の便器が展示室に持ち込まれた。彼の行為は、もちろん批判された。美術はこれまで創(つく)る技術とセットで考えられ、それは疑われることがなかったからだ。彼は、自らが作ることなく既製品を選び、異なる意味を与え、「神聖」とされてきた美術館に持ち込んだ。

 それからずっと僕たちは悩み続けている。要するに、アートとは何かという定義が無くなったからだ。「アートが分からない」とよく言われる。僕もそうだ。だって、アーティストはこれまでの定義を壊し、新たな可能性を提示しようとするから。過去の常識に囚(とら)われた物差しで見ていても、変化する未来にはたどり着けないのだ。

 2009年の『混浴温泉世界』の開催中、美術評論家の小倉正史さんは、サルキスさんの展示会場を運営した学生から、作品の意図が分からないと相談を受け、こう答えた。

 「ここに何が置かれているかよく見てごらん。注意深く観察していると、何をどうやって配置しているかだんだん分かってくる。それらは全て、何らかの想(おも)いを込めてアーティストが用意した状況だ。その状況から心の中に何が芽生えるのか感じてごらん」

 フェリックス・ゴンザレス=トレスというアーティストは、美術館になんの変哲もない、全く同じ時計を二つ並べた。それは同じ時を刻んでいる。しかし、僕たちは想像する。いつしか片方は電池の寿命が尽き、やがて時を刻むのをやめるだろうということを。アーティストのパートナーはエイズで亡くなった。本人もいくつかの作品を残しこの世を去った。多くの若者たちに観察することを説いた小倉さんも、今年旅立った。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(12月15日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 59ed649e02
終了間近

大森記詩展
SCALESCAPE:ホビー/アート/ジャパン

2025/09/13(土) 〜 2025/10/12(日)
田川市美術館

Thumb mini 5fd1166b48
終了しました

特別展 「法然と極楽浄土」関連イベント
トークショー 仏像の世界へようこそ! はなさん と学芸員がナビゲートする極楽浄土ツアー

2025/10/12(日)
九州国立博物館

Thumb mini 5c6d741256

瀬戸口朗子 境界でめぐり逢う 

2025/10/11(土) 〜 2025/10/25(土)
EUREKA エウレカ

Thumb mini 4ef160e33a

企画展
人形アニメーション創成期の人形作家 小室一郎展

2025/10/11(土) 〜 2025/11/09(日)
高鍋町美術館

Thumb mini d31fc9aa99

売茶翁生誕350年特別展
売茶翁と若冲

2025/10/07(火) 〜 2025/11/24(月)
佐賀県立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 1a5839975c
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 28

Thumb mini 31558e8833
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 27

Thumb mini 1e8f9bd687
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 26

Thumb mini c759bb1037
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 25

Thumb mini 069d53383f
連載記事

【連載】山出淳也 アート、まちに出る 24

特集記事をもっと見る