江口寿史展
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/03/18 |
この町にはアートが必要だ
芸術祭『混浴温泉世界』は3回で止めようと決めていた。
2009年に初めて開催し、それから3年に一度、3回目を一区切りに見直しを図る。別府市民によるまち歩きの記事を読み帰国し、誰からも求められず準備を始めて10年がたった2015年の夏、最後の『混浴温泉世界』が開幕した。
最終回はルーツに戻りたいと考えた。ガイドに誘われアートや町と出会う、アート版・まち歩きを企画した。一般的な美術展では、入場制限はあっても作品を自由に鑑賞できる。それに対して、ガイドツアーに参加しないと体験できないこの企画。事前予約が必要で、ツアーだから絶対的な参加人数は減る。案の定、この方法に否定的な方々も多くいた。
僕たちは、このエリアならではの場所を会場にと考えた。10年間別府で活動し、この町の構造はよく知っている。50年間その存在を忘れられていた小さな地下街も再発見した。戦災を免れたため路地が残る。小売りや飲食によって市街地が発展したから、一つ一つの建物や区画も小さい。そんなエリアで作品を設置できる屋内は、一度に多くの人を受け入れることが難しい。
そして最大の理由は別にあった。「市民にはアートが難しい。分かりやすい作品を作ってもらいたい」。美術館を飛び出たアートには、いろいろなリクエストが飛び交う。そのたびに、分かりやすいかどうかではなく、一番良い状態でアートと出会ってもらいたい、と考え続けてきた。ツアーという体験方法は僕たちにとっての必然だった。
最終回のこの事業、組織内での目標を「世界で最も幸せな芸術祭の実現」と決めた。参加者のことを想(おも)い全力で準備した。ツアーによる参加方法だからこそ、全員から声が聞けた。満足度は90%を超えた。参加者のほとんどが宿泊し、以前より経済効果も高くなった。
フィナーレの場で、僕はこの10年を想った。言葉にならない声でお礼を伝えた。この年、当選した市長から「この灯を絶やしてはいけない。この町にはアートが必要だ」。そう声をかけられた。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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