江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
山出淳也 2021/03/23 |
エッジを効かせろ!
数十人が参加する芸術祭を2015年でやめ、予算総額はそのままに、1組のアーティストを別府市に招き規模の大きなプロジェクトを、翌年から毎年行うことにした。つまり個展だ。
「エッジの効いたものじゃ無いと、別府でやる意味が無いから」。大分県庁のIさんはそう言って、いつでも躊躇(ちゅうちょ)する僕を導く。「尖(とが)ってるからいいんですよ!」と別府市長も僕の背中を押す。そうして始まったのが、この「in BEPPU」という取り組みだ。
グループ展から個展に切り替えたことで、僕たちはその1人の想像力をカタチにすることに集中でき、アーティストは最高作を生み出すことに時間を費やせる。市内各所を会場に、日常の風景を異化しようとするこのプロジェクトは、常識に揺さぶりをかけ、風景と一体になったインパクトのある作品画像として世界に発信されることになる。それは結果的に別府の懐の深さを伝えることにつながる。
2017年は、シンガポールのマーライオンをはじめ、公共空間の象徴的なものを取り込んで作品化することで世界的に知られる西野達を招いた。彼は数カ月間滞在し、たくさんのアイデアを口にする。そのほとんどは実現できなさそうなものばかりだった。さらに言えば、彼はアイデアはあっても、実現のための技術的、法規的な部分はこちらに任せるから、たまったものではない。「でも、大変であればあるほどこちらの経験値が高まるのだから」。そう言い聞かせ八つのプロジェクトを実現した。
別府駅前にある油屋熊八の彫刻を取り囲み旅館に変えた。発泡スチロールで2階建ての家を建てた。家財道具を積み込んだトラックを外灯で串刺しにした。電車の手すりにケバブを取り付けた。そして、この町のシンボル・別府タワーに目や口を描き、赤い前掛けをかけ、旅人を見守る地蔵に変えた。ロッククライマーに高所作業への協力を要請し、実現したこの作品。こんな風景、もう二度と見ることできないなと今でもそう思う。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(12月18日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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