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まなざしの果実 熊谷守一展から<5最終回>【連載】

2020/01/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

熊谷守一(1880~1977)は97年の生涯で、自らを取りまく草花や動物、虫、人間の「いのち」を等しく見つめ、洗練された構図で描き出した。絵は守一と画題との対話の実りのようでもある。「モリカズ様式」と呼ばれる独自の境地を拓(ひら)いた作品世界を5回にわたって紹介する。

赤蝦蟇(1976年)

守一の油彩に目を凝らすと、筆跡の方向にまで気を使い、丹念に塗っていたことが分かる。「同じ図柄の絵でも塗り方を変え、実験を繰り返したのでは」と森智志学芸員は指摘する。
  守一は日本画も描いた。油彩とは対照的に気の赴くまま筆を走らせたようだ。「赤蝦蟇」は最晩年の作品。ぷっくりと愛嬌がある。守一はある時、禅画で有名な仙厓義梵の言葉を書にした。「仙厓)はわたしと同じ岐阜の人で幕末の坊主です。説教のときでも、こどもの描くようなへたな絵を描きました」(「熊谷守一 人と作品」1975年)。親しみがあったようだ。

夕映(1970年、岐阜県美術館蔵)


  89歳で画廊主に「ほんとうに描きたいと思っているもの」を、と請われ「そんなもの描いても(略)売れないよ」と答えながらも描き始めたのが、時間や季節の異なる日輪や月を描く「同心円シリーズ」。「夕映」は、夕日の色彩とおぼろな雲が瞳に映るかのようだ。守一は、同心円シリーズを「自画像」と答えたこともあるという。禅宗で悟りの境地を示す「円相画」にも通じる、守一だけに見えた森羅万象の境地がそこにある。(大谷知世)=12月27日西日本新聞朝刊に掲載=

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