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「白馬のゆくえ」展みどころ⑤ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ4

2020/07/29 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館で開催されている特別展「白馬のゆくえ 小林萬吾と日本洋画50年」(~2020/8/23[日])では、洋画黎明期に学んだ小林萬吾(1868−1947)の50年におよぶ画業と、彼がめぐりあい、ともに日本洋画の歴史に名を刻んできた個性豊かな洋画家たちの名作の数々を紹介しています。本展のみどころを、久留米市美術館の方々から、数回にわたって紹介していただきます。

1回目はコチラ
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 展覧会会場に並ぶ二つの作品、和田英作の《赤い燐寸》と萬吾の《磯菜摘》は、並べて見ることでまさに響き合っていることに気づかせてくれる作品です。男性と女性、一人と二人という違いはあるものの、いずれもモデルは若く健康的です。男性の背景の真っ青な海は、夏を想わせるのに対し、女性たちの背景となったやや沈んだ色の海は、「磯菜摘み」の季節である春の海でしょう。海は彼らの若さを引き立てるものとして重要です。そして太陽の光は、何かにさえぎられることなく、彼らに直接降り注いでいます。この2点の制作年は和田のほうが一年早く、それぞれ1914(大正3)年の第8回文展と翌年の第9回文展に出品されています。

和田英作《赤い燐寸》1914年 鹿児島市立美術館

 和田の《赤い燐寸》については、後年、モデルとなった渋沢秀雄氏(実業家渋沢栄一の息子で随筆家)が次のように回想しています。「大きな経木の帽子をかぶり、宿屋の浴衣を着た二十二歳の私が、敷島(当時の煙草)をくわえて、海岸の岩の上に立ちながら、両手でマッチに火をつけようとしている。背景はまっさおな海。激しい太陽の直射で、陰と日向の対照がきわめて印象的だ。私の手にしたマッチのペーパーは、青い海の前で赤く光っている」。マッチ箱の赤い色が青年の手と顔に反射する様を和田は描きたかったのでしょう。彼の立つ岩場は描かれず、帽子も画面からはみ出してしまうほど、クローズアップでとらえられています。
 

小林萬吾《磯菜摘》1915年 香川県立ミュージアム

 一方、萬吾の《磯菜摘》には、海藻取りにやって来た二人の女性が、作業の合間に語らう様子が描かれています。海からの収穫物をしかと手にし、岩場にしっかり立つ姿で描かれた彼女らは、美しさとたくましさを合わせ持っています。

 萬吾のこの作品が出品された第9回文展に、藤島武二はチャイナドレスを身に着けた女性像を出品しました。この展覧会では、その作品もごらんいただけます。

(久留米市美術館副館長兼学芸課長 森山秀子)

※第6回につづきます

 

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