九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  「白馬のゆくえ」展みどころ⑥ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ5【最終回】

「白馬のゆくえ」展みどころ⑥ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ5【最終回】

2020/08/05 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館で開催されている特別展「白馬のゆくえ 小林萬吾と日本洋画50年」(~2020/8/23[日])では、洋画黎明期に学んだ小林萬吾(1868−1947)の50年におよぶ画業と、彼がめぐりあい、ともに日本洋画の歴史に名を刻んできた個性豊かな洋画家たちの名作の数々を紹介しています。本展のみどころを、久留米市美術館の方々から、6回にわたって紹介していただきました。今回が最終回です。

1回目はコチラ
2回目はコチラ
3回目はコチラ
4回目はコチラ
5回目はコチラ

*****

小林萬吾《花鈿》1927年 香川県立ミュージアム

 このたびの展覧会のポスターに使われ、展覧会の「顔」ともなった萬吾の《花鈿》ですが、この絵のモデルの女性はチャイナドレスを身に着けています。この作品は、1927(昭和2)年の第8回帝展に出品されたものです(1907年に始まった文展は、1919年に文部省から帝国美術院に主催が変わったことで帝展という名称になりました)。萬吾は、1925年の第6回展から8回展まで連続して中国服の女性像を帝展に出品しています。中国服の女性像を描いたのは、萬吾一人ではありません。藤島は、すでに1915(大正4)年の第9回文展に《匂い》を出品し、少し間をおいて、1924年の第5回、第6回、第8回帝展に中国服をまとった横顔の女性像を出品しています。藤島と萬吾がほぼ同時期、同じ帝展を舞台に中国服の女性像を発表していることから、両者の間に共鳴し合う何かがあったのかもしれません。二人とも中国服を集めていたことでも知られます。

藤島武二《匂い》1915年 東京国立近代美術館

 藤島の《匂い》では、強い視線をこちらに送る女性の顔に私たちの目は思わず吸い付けられそうです。少し落ちついて周囲を見回すと、女性の右腕と左腕がつくり出す円周の中にすっぽりと収まる嗅煙草の瓶が目に入ります。テーブルの上にはカーネーションが挿された花瓶も置かれています。嗅煙草とカーネーションはこの絵のタイトルである「匂い」と結びつくもので、この絵の主役となります。

 萬吾の《花鈿》では、斜め上を向く女性の視線の先が気になりますが、この作品でも女性の手の動きが重要です。女性は手を上に伸ばし、両手がつくり出す三角形の頂点に「花鈿」があって、今まさに留められようとしています。彼女の身支度の完成がこの絵の完成ともなるのです。

(久留米市美術館副館長兼学芸課長 森山秀子)

 

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 59ed649e02
終了しました

大森記詩展
SCALESCAPE:ホビー/アート/ジャパン

2025/09/13(土) 〜 2025/10/12(日)
田川市美術館

Thumb mini 5fd1166b48
終了しました

特別展 「法然と極楽浄土」関連イベント
トークショー 仏像の世界へようこそ! はなさん と学芸員がナビゲートする極楽浄土ツアー

2025/10/12(日)
九州国立博物館

Thumb mini 5c6d741256

瀬戸口朗子 境界でめぐり逢う 

2025/10/11(土) 〜 2025/10/25(土)
EUREKA エウレカ

Thumb mini 4ef160e33a

企画展
人形アニメーション創成期の人形作家 小室一郎展

2025/10/11(土) 〜 2025/11/09(日)
高鍋町美術館

Thumb mini d31fc9aa99

売茶翁生誕350年特別展
売茶翁と若冲

2025/10/07(火) 〜 2025/11/24(月)
佐賀県立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini b3145b7436
コラム

「白馬のゆくえ」展みどころ⑤ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ4

Thumb mini 566f3df5f9
コラム

「白馬のゆくえ」展みどころ④ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ3

Thumb mini 0baa4cc6ae
コラム

「白馬のゆくえ」展みどころ③ 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ2

Thumb mini cc3bc1f094
コラム

「白馬のゆくえ」展みどころ② 小林萬吾を通して日本洋画を楽しむ1

Thumb mini 283552248f
コラム

「白馬のゆくえ」展みどころ①「駆けてゆく駿馬たち-とある洋画家の見た美術史」

特集記事をもっと見る