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「白馬のゆくえ」から <下>【連載】

2020/08/12 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 「白馬のゆくえ」では、小林萬吾(1868~1947)を軸に、明治から現代までの日本洋画の歩みを紹介している。西日本新聞の記者が、美術館の学芸員に見どころを聞き、2回に分けて紹介する。
連載<上>はこちら

留学/欧州を旅し範求め

 記者 1897年に欧州への官費留学制度が始まりました。多くの画家が憧れの地に渡り、勉強しましたね。

 学芸員 現地で刺激を受け、技法を吸収し、自分の表現を獲得した画家の1人が、児島虎次郎です。ベルギーで描いた「和服を着たベルギーの少女」は、筆足の長い不可思議な筆運びをしていて、留学前とは作風が大きく変わっています。

児島虎次郎《和服を着たベルギーの少女》1910年 高梁市成羽美術館

 記者 確かに留学前の「登校」(1906年)と見比べると違う人が描いたみたいです。児島と小林萬吾はベルギーで会うなど交流があったそうですね。

 学芸員 萬吾は42歳で留学しますが、とにかく交友関係が広く、年下の画家からも慕われる人柄だったようです。尊敬する画家シャヴァンヌの「貧しき漁夫」を美術館で模写したり、シャヴァンヌの後継と言われていたアンリ=ジャン・ギヨーム・マルタンが横幅7メートルもの大作を制作する様子をアトリエで見学したりして過ごします。どの画家も旅するように住居を転々とし、それぞれ範を求めました。

アンリ=ジャン・ギヨーム・マルタン《自画像》1919年 国立西洋美術館

成熟/帰国して洋画を模索

 記者 小林萬吾を含め、欧州に留学していた画家の多くは、1914年に第1次世界大戦が始まったことを機に帰国しますね。

 学芸員 欧州で培った画風を、日本でどう開花させるか。葛藤と挑戦が始まります。藤島武二は帰国して1年間、出品を休みました。ようやく発表したのが「匂い」です。チャイナ服を着た女性を描き、朝鮮視察の経験も生かされています。花と一緒に女性を描く手法は、初期作品の特徴でもあり、新しい画風に挑む覚悟を感じます。

藤島武二《匂い》1915年  東京国立近代美術館

 記者 萬吾の「花鈿(はなかんざし)」の女性もチャイナ服を着ています。

 学芸員 大正期から昭和初期に中国服や韓服の作品が散見されます。藤島は「日本の女を使って東洋的な典型美をつくってみたかった」と語り、萬吾も同じ思いだったと考えます。日本人女性をモデルに裸婦画を描いたり、麦を収穫する農家の日本的風俗を描くのに西洋で学んだ技術を生かしたり。画家たちの模索と挑戦によって、日本洋画は成熟していきます。

小林萬吾《花鈿》1927年  香川県立ミュージアム

次代/多様な後進が活躍

 記者 畦地梅太郎の「雪渓に立つ」や、今も活躍されている野見山暁治さんの「これだけの一日」を見ると、小林萬吾の流れをくむ後輩画家の画風は全く違いますね。みんな、萬吾の画塾「同舟舎」に来たことがある画家なんですか?

畦地梅太郎《雪渓に立つ》1956年 愛媛県美術館
 野見山暁治《これだけの一日》2006年 久留米市美術館

 学芸員 確かにどれも個性が違います。でも、正統的な描き方に縛られずに、自由な表現を貫いたという点では共通しているんです。愛媛出身の畦地は萬吾のもとでデッサンを学びます。版画の才能を見いだし、版画家になるよう勧めたのは萬吾なんですよ。

 記者 萬吾が画家の個性を生かし、育てたんですね。野見山さんは、東京美術学校受験の直前、同舟舎を訪ねたそうですね。

 学芸員 野見山さんはそこで「石膏(せっこう)像の重さを描いている」とデッサンを褒められます。今もその言葉を胸に刻み、制作しているそうです。もし萬吾が生きていたら、現代美術の多様さを見て、後進の活躍を喜ぶことでしょう。

=7月27、28、29日西日本新聞朝刊に掲載=

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