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実験映像作家・伊藤高志の展覧会を田川市美術館で開催! 代表作の上映から創作手法の種明かしまで

2025/05/04 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 今春、福岡が生んだ実験映像作家・伊藤高志氏の創作をたどる展覧会・上映会が、福岡県内ふたつの会場、田川市美術館、福岡市総合図書館映像ホール・シネラで企画されています。
 現在、展覧会「像の旅 伊藤高志映像実験室」を開催中(5/18まで)、田川市美術館の学芸員・藤本亜季氏より寄稿いただきました。
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 田川市美術館では5月18日(日)まで、春の企画展「像の旅 伊藤高志映像実験室」を開催中です。

 筆者は伊藤先生が九州産業大学で教鞭をとっていた時の教え子で、今回の美術館初個展を担当できたことを大変光栄に思っています。この展覧会をひとりでも多くの方に見てもらいたく、以下に展示の見どころ等について紹介します。

 「像の旅 伊藤高志映像実験室」は「上映会」ではなく、あくまでも「展覧会」なので、まずは伊藤先生の映像トリック、その種明かしをする部屋をひとつ設けました。伊藤作品の多くは「コマ撮り」や「長時間露光」を用いた独特なイメージやモーションによる斬新かつ実験的な表現となっていますが、それがどのようにして生まれたのかを理解するための撮影装置やコンテ、アイデアメモ、映像制作のために用いられた写真素材等を多数展示しています。

展覧会場 風景
会場には代表的な映像作品とともに、制作のプロセスや手法がわかる資料や道具類が並ぶ

 例えば『BOX』(1982年/8分)は永遠の回転運動を行う箱の表面で風景が流れていく作品ですが、実際の箱の表面に写真を貼って1枚1枚撮影したものをつないだ連続写真です。デジタル技術のない時代に人力で作られたテクスチャ―・マッピングとも言える作品です。今回は撮影に使われた箱と写真を展示していますが、たったこれだけの仕掛けで、豊かなイメージを作り出す伊藤マジックがお分かりいただけるのではないかと思います。

 『悪魔の回路図』(1988年/7分)は、池袋のサンシャイン60が回転するコマ撮り作品ですが、その撮影ポイントを記した地図とそれに対応する写真を展示しています。地図上のポイントは全部で48ありますが、これはフィルムが1秒24コマであるため、48枚の写真をつなげれば2秒で1周できる計算に基づくものです。直径では1㎞近い円周になるので、その回転速度は強烈なスピードになります。伊藤先生は「当初富士山でやろうと思ったがその労力を想像してあきらめた」と語っていますが、Google Mapsのない時代に歩いて位置合わせして撮影した労力も相当なものだったことが資料から読み取れるでしょう。本展のゲストキュレーターである澤隆志さんは、「当時開業10年だったバブルの塔を中心とした逆パノラマビュー映画。被写体を中心としたカメラ地動説映画」と評しています。

『悪魔の回路図』
どのようにして撮影スポットの目星をつけ、作品が生まれたのかが視覚的にわかる展示内容

 『ビーナス』(1990年/4分)は家族をテーマにした作品ですが、初期作品に比べ、画面構成と動きはさらに複雑さを増しています。映像上では画面が複数に分割され、それぞれが独自の動きを見せるのですが、展示資料を見ると、実は手作業でその分割画面が1枚ずつ作られていることが分かります。この緻密に計算された写真をコマ撮りすると、あのスムーズに動く不可思議な光景の映像ができるのですから驚きです。大量の紙焼き写真を切り貼りしたり、曲げたり、組み合わせながら誰も見たことのない不可思議な世界を提示していく伊藤作品の本質が凝縮された1本と言えるでしょう

 この他にも『DRILL』(1983年/5分)、『GRIM』(1985年/7分)、『WALL』(1987年/7分)、『ミイラの夢』(1989年/5分)、『零へ』(2021年/72分)、『遠い声』(2024年/53分)、など計8作品の映像トリックを様々な資料と当該箇所の抜粋映像によって紹介しているのがこの部屋です。

『DRILL』で使われたカメラの装置
画面を回転させるために製作した特注の撮影装置と、16mmフィルムカメラ
『WALL』に使用したスチールの数々
『遠い声』の絵コンテ

 続く中央展示室では3つの壁面をスクリーンに見立て、代表作の『SPACY』(1981年/10分)、『ZONE』(1995年/12分)、『甘い生活』(2010年/23分)を大画面でプロジェクション。伊藤の京都造形大学(現京都芸術大学)時代の教え子である八嶋有司がシステム設計を担当。フルハイビジョンプロジェクター用に画質やフレームレートを入念に調整した美麗な映像が楽しめるインスタレーションとなっています。

 最後の展示室では九州芸術工科大学(現九州大学)の体育館で撮影された『SPACY』の撮影の間合いを1/1で再現したインスタレーションを設置。指定された位置からスマホで写真を撮って動画化すると、誰もが『SPACY』の田川市美術館バージョンを作ることができる体験型の展示となっています。理屈はわかっていても実際に伊藤作品のような動きを作るのは難しい!ということを体感してもらおうという試みです。もし映像の中でうまく空間を連続させることができたなら……あなたも映像作家になれるかも!?

来場者自身が伊藤氏の代表作『SPACY』の制作の追体験ができるコーナー
『SPACY』の制作時の資料も公開

 さらに会期中の毎週日曜日にはAVホールで伊藤作品のセレクション上映会も開催。初期の短編実験映画から近年の長編劇映画までの13作品に加え、初期作品をリミックスして制作されたMETAFIVEのミュージックビデオ『The Paramedics』も特別に上映しています。

 伊藤作品の制作手法を知り、大画面で各年代の代表作を鑑賞し、制作のプロセスを追体験する。映像を見るだけでなく、様々な切り口から伊藤作品の魅力と本質に迫る企画となっています。ぜひ足をお運びください。

(田川市美術館学芸員・藤本亜季)
 

像の旅 伊藤高志映像実験室
日 時:2025年4月12日(土) 〜 2025年5月18日
    9:30 〜 17:30(入館 17:00まで)
会 場:田川市美術館(田川市新町11-56)
休館日:月曜日(ただし5月5日は開館)・5月7日(水)
料金:一般 800円、高大生 400円、小中生 200円
問い合わせ:TEL.0947-42-6161(田川市美術館)
展覧会の詳細、会期中のイベントは公式HPをご確認ください。
田川市美術館公式HPはこちら

 

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