ホキ美術館名品展 ~心ゆさぶる写実絵画~
2018/03/30(金) 〜 2018/05/06(日)
09:30 〜 18:00
鹿児島市立美術館
アルトネ編集部 2018/04/27 |
写実絵画が人気だ。書店の美術書コーナーには特集雑誌が並び、美術市場では作品の売れ行きも好調という。2010年に開館した写実絵画専門のホキ美術館(千葉市)も人気を後押しする。何が人々を魅了するのか。鹿児島市立美術館で開催中の「ホキ美術館名品展」で考えた。
まるで写真だ。島村信之の「幻想ロブスター」は、甲殻類の複雑な形をした口、ハサミの小さな爪まで精密に描かれている。黒い床に反射した手足がリアリティーを際立たせる。だが近づいて見ると、筆の跡が分かり、絵であると実感する。来場者もあちこちで作品を凝視していた。
色彩も豊かだ。写実絵画に詳しい安田茂美・東京芸術大客員教授によると、映像は3色、印刷物は4色の組み合わせで色を再現するのに対し、絵画はたくさんの絵の具を混ぜる。特に油彩は薄く描くと半透明になり、「何層も重ねて描くことで発色が自然に近くなる」と安田さんは語る。
生島浩が足かけ4年を費やした「5:55」から色彩の深みが見て取れる。薄暗い部屋で、青い服を着た女性が椅子に座っている。彼女の右側から淡い光が差し込み、右肩は白っぽい。左側の影になるにつれて色がくすんでいく。こうした光の表現は、17世紀のフェルメールにも通じる。
本展は画家26人の62作品を並べ、それぞれの技術や個性の違いを浮かび上がらせる。森本草介は独特なセピア色の作品で知られ、代表作「光の方へ」で裸婦の後ろ姿を描いた。絹のような髪の毛、柔らかな尻を繊細に描き、セピア色の世界が女性の柔和な雰囲気を引き立てる。床と壁の境界をあえて描かず、構図と色の濃淡だけで空間の奥行きを表現したのも興味深い。
19世紀に写真が登場し、画家の立場が変わった。職を失い、写真技師に転じた肖像画家もいたという。目の前の事象を正確に記録する写真に対し、画家は何を描くのか。抽象表現もその答えの一つだった。
「写真は一瞬を切り取るが、絵画は画家が時間をかけて技術を埋め込み、理想像を表現するもの」と安田さん。絵画として成立させるため、現実とは違う部分が絵の中に存在することもある。誰もが気軽にデジカメで撮影できる今だからこそ、研ぎ澄まされた人間の技術力と想像力を体感できる写実絵画に、人々は魅了されるのだろう。 (野村大輔)=4月23日西日本新聞朝刊に連載=
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