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国芳から芳年へ。大胆かつドラマティックな幕末の浮世絵の魅力に迫る!【レポート】

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大迫章代
2019/11/27
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ダイナミックな武者絵やユニークな戯画で新機軸を打ち出し、“奇想”の絵師と呼ばれた幕末の浮世絵師・歌川国芳とその弟子・月岡芳年。
ふたりの作品を中心に紹介する特別展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」が福岡市博物館で12月22日(日)まで開催中。開幕初日に行なわれた本展仕掛人である元名古屋市博物館副会長・神谷浩氏の記念講演会「国芳と芳年の『快感』」の内容を導き手に、展覧会の見どころをレポート。

 

入り口手前の横断幕


 

30年間にわたり名古屋市博物館の学芸員を務めていた神谷氏が、退職を機に、学芸員時代の経験と知識を生かして企画したのが、名古屋市博物館が所蔵する浮世絵コレクションをもとにした本展覧会。コレクションの大部分は、国文学者・尾崎久弥(きゅうや)と医学者・高木繁というふたりの個人コレクターが集めたもので幕末の浮世絵が多い。


「40~50年前までは、それほど注目されていなかったのですが、幕末の浮世絵は、知れば知るほど面白い! そこで幕末の浮世絵の魅力を、近年人気と知名度が高まっている歌川国芳と月岡芳年の作品を中心に紹介するのが本展です」(神谷氏)

ちなみに、サブタイトルにも入っている「挑む」は、当時の人気メディアであった浮世絵(錦絵)の絵師たちが、いかに観る者を飽きさせないように工夫し、新しい表現に挑戦してきたかという姿勢を表現したもの。
展覧会の5つのテーマに沿って、展示作品の見どころを見てゆきたい。

 


1 ヒーローに挑む

国芳を語る上でまず紹介したいのが、歴史や伝記ものの物語に出でくるヒーローを描く武者絵。国芳は、この分野を劇的に進化させた人物として知られている。
国芳以前、武者絵は歌舞伎の役者を題材に描かれることが多かったが、国芳は物語から直接イメージを膨らませ、オリジナルのヒーローを作り上げたのだそう。

歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一人 花和尚魯知深初名魯達」1827年頃、名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
国芳の出世作。背中に入れ墨を入れた筋肉隆々の怪力の坊主という強烈なヒーロー像が話題となった。

 

 

また、国芳の独自性を知るうえで特徴的なのが、型破りな3枚続のワイドスクリーンの使い方。通常の3枚続は、1枚1枚でも成立するような構図になっているのだが、国芳は平気で3枚セットでないと成立しない構図の作品を描き、観る者を唸らせた。

「国芳は、場面の切り取り方が天才的に上手かった。特に、ワイドスクリーンを効果的に使った物語の可視化と、観る者を驚かせる視覚的な仕掛けは抜群のものがあります。当時を代表する戯曲家の滝沢馬琴でさえ、国芳の作品を買わずにいれなかったという記録が残っているほどです」(神谷氏)

歌川国芳「児雷也と大蝦蟇」1852年、名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
巨大な豹柄のじゅうたん?…と思いきや、巨大な蝦蟇の背中!3枚を横に貫く大胆なレイアウトが真骨頂。 

 

 

歌川国芳「吉野山合戦」1851年頃、名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
縦長だってお手のもの。「“国芳さん、今回もやりましたね!”そんな会話が当時も交わされ、国芳は人びとを驚かせていたのではないでしょうか」(神谷氏)

 

この国芳の特許ともいえる3枚続の使い方は、弟子たちに引き継がれ進化を遂げていく。
一方、「最後の浮世絵師」と呼ばれる月岡芳年が同じ題材を描くとどうなるか、ぜひ会場でその違いを確かめてみて欲しい。

月岡芳年「東名所墨田川梅若之古事」1883年、名古屋市博物館蔵(尾崎久弥コレクション)
「芳年は、極端な構図というよりか、物語の情景や感情を表すことに集中し、そうすることで絵の完成度を高めています」(神谷氏)

 

 

2 怪奇に挑む

本展の見どころのひとつは、月岡芳年と兄弟子・落合芳幾が半数ずつ手掛けたとされる“血みどろ絵”の大傑作「英名二十八衆句」が全28図勢ぞろいすること。

展示テーマ「怪奇に挑む」の前には、こんな肝試しコーナーも。

 

おどろおどろしい表現、凄惨な絵の数々に作者の異常性を感じてしまいそうだが、「英名二十八衆句」に名を連ねているのは、当時の演劇界や文芸界の第一人者ばかり。
当時流行していた『東海道四谷怪談』のような怖い歌舞伎の一場面を、より劇的に、強調して描くことで、人々の“怖いもの見たさ”を満たしていたそう。

月岡芳年「英名二十八衆句 遠城喜八郎」1867年、名古屋市博物館蔵(尾崎久弥コレクション)
会場展示はこのように短歌とセットで展示されている。

 

 

よ~く観ると、倒れた男がこちらを観ている! ぞっとするほどリアルな描写に鳥肌。(部分)

 

 

歌舞伎は公演が長時間にわたり、料金も高く、開催される場所も少ない。一方、講釈は比較的短時間で、聞ける場所も多いが、語りしかない。テレビやインターネットがなかった時代、錦絵(多色摺りの浮世絵)は色つきでコンパクトに、歌舞伎や講釈に登場する場面をリアルに再現できる恰好のメディアだった。残虐な血みどろ描写ばかりに目がいくが、その彫りと摺りの技術は芸術的なので、細部に注意しながら鑑賞しよう。

国芳の代表作「相馬の古内裏」(拡大)を背景に記念撮影も可能!

 

 

 

3 人物に挑む

浮世絵の王道といえば、美人画、役者絵などの人物画。
従来の伝統を踏襲しながらも、庶民的な美人画を多く残した国芳と、陰影法や遠近法も取り入れつつ、当時の現代的な女性像を描いた国芳。

 

歌川国芳「江戸じまん名物くらべ こま込のなす」1844~46年、名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
なすを剥く女性。武者絵の国芳と呼ばれる一方で、こんな表現も数多く残している。

 

 

月岡芳年「風俗参十二相 かゆさう 嘉永年間かこゐものの風ぞく」1888年、名古屋市博物館蔵(尾崎久弥コレクション)
「○○したい」や「○○そう」などのシリーズものは、思いがけないシチュエーションと表情のコンビネーションが面白い。神谷氏は、歌麿、国芳の美人画を継承した芳年の色っぽい美人画が好みだそう。この表情で「かゆそう」って、確かにたまりません…。

 

 

 

4 話題に挑む
「当時の流行メディアだった錦絵は、今でいうニュースやワイドショー的な役割をしていた」ということで、展示のテーマ4番目は、国芳たちがどう当時の時勢やニュースを切り取っていたかが分かる作品が並ぶ。当時、大っぴらにできなかった遊郭の宣伝を、雀の顔で描いたものや、国芳流のパロディ版役者絵など、国芳のもう1つの得意分野である戯画を紹介。そこに込められた、さまざまな意図が解説付きで楽しめるのもうれしい。

テーマ4の展示スペース前には再現された絵草子屋が登場

 

実は全部が歌舞伎役者の似顔絵という国芳の「亀喜妙々」を切り取った撮影スポット

 

歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿」1846年、名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
こんな絵の吹き出し解説が付いていてわかりやすい。

 

「あまり言われていないことですが、国芳の作品の特徴のひとつに、“観てきたように描く”ということがあると思います。忠臣蔵の討入を描くとき、画面の一角に犬と戯れる人物を描いたり。それはまるでシャッターを切るときに、偶然、起こったハプニングのようです。だからこそ、物語がより現実味を帯び、いきいきと見えてくるのではないでしょうか」(神谷氏)
神谷氏の言う通り、生き生きとしたダイナミズムに満ちた国芳や芳年の浮世絵のおかげで、有名な歴史や物語のワンシーンがより身近に感じられてくる。

最後は「芳」ファミリーの代表的な絵師と作品を紹介するコーナー。親分肌だったと言う国芳のもとには、多くの絵師が弟子入りし、「芳」の画号で多くの浮世絵を残した。それぞれの弟子に引き継がれた国芳のDNAをまとめてみることができる。

 

1作品1作品、なぜこの作品を選んだのかが分かる解説付きで、作品をより深く鑑賞することができる本展覧会。展示会場の出入り口には、記念に持ち帰ることができるスタンプしおりや、自分の「よし札」を下げられるよし札コーナーなど、福岡会場オリジナルの試みもあり、ワクワク度も倍増。
真ん中がパカッと開いて見やすい図録をはじめ、大の猫好きだったという国芳の豊富な猫グッズがそろうグッズコーナーのチェックもお忘れなく! 

 

4種類の台紙と4種類のスタンプから好きなものを選んで、自分だけのしおりを作ることができる。

 

会場左手にある「よし札コーナー」

 

外国人にも喜ばれそうな浮世絵グッズ、猫好きならずとも手が伸びそうなグッズがいっぱい

 

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