江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
山出淳也 2021/05/11 |
チャレンジすること
アーティストは表裏一体の二つの恐怖と戦っている。
一つは、今作っている作品は駄作かもしれないという恐怖。評価が定まっていてもいなくても、彼らは常に後がない。崖の淵に立っているようなもので、一つでも駄作を生み出せば、次の仕事につながらないことをよくわかっている。
もう一つ、それはチャレンジをしないこと。幸運なことに評価を得た作品が生まれ、それを繰り返しているうちに飽きられて、世間から「彼は終わった」とささやかれる。「自分にはもっと可能性があるはず」と信じたくても、ある程度固まった評価を逸脱する勇気が持てなくなる。
新たな挑戦は怖いもの。初めてのことにはリスクが付きまとい、成功するかどうかわからない。「次の作品こそ最高傑作だ」と信じていても、「失敗したらどうしよう?」と頭をよぎる。
企画する側も、うまくいかないくらいなら過去作の焼き直しでもと考え、依頼する。失敗すればマイナス査定になるかもと、ホームランを狙わずボールに当てにいく。前例踏襲って意識にも近いかもな。そうやって、全国どこでもアーティストのチャレンジを許す場所が少なくなっていく。
チャレンジすることを諦めると、殻は破れない。殻が破れないと、自分が想像できる範囲のことにしか光は灯(とも)せない。自分の周りしか見えないと、一歩先やその向こう、つまり未来には向かえない。
子育てに似てるなって思う。
うまくいけばラッキーだ。でも失敗したら、チャレンジしたことを讃(たた)え、その失敗から学び、また進めばいい。学べることが多いほど、人はまた成長していけると思うから。
チャレンジするためには、何が必要か?
多分、挑戦しようとする勇気なんだろう。大きなことでも、小さなことでも、今の自分には、無理だって思うことでも、よく分からないってことでも、チャレンジしなければその先がどんな風景かなんて分からない。
チャレンジすることは、尊い。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(1月14日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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