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「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」展より【学芸員コラム】(その2)明治から大正、そして昭和へ-中村彝、安井曽太郎

2025/04/12 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館で5月11日まで開催中の「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション カンディンスキー、高橋由一から具体まで」。同館担当学芸員の森智志さんより、展覧会の見どころを寄稿いただきました。

「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」展より(その1)はコチラ

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 明治時代も終わりに差し掛かった1910年、後にセザンヌやゴッホといった作家を紹介したことで知られる文芸誌『白樺』が創刊。また、この頃になると西洋の美術書や雑誌も輸入されるようになり、同時代の西洋美術が次々と紹介されるようになりました。こういった情報は、特に新たな表現を模索していた若い世代の画家たちの中で急速に広まり、新しい傾向の作品が次々と生み出されるようになっていきます。

中村彝《自画像》1909年頃 
洲之内コレクション 宮城県美術館蔵

 中村彝(1887-1924)の《自画像》では、眉をひそめた彝の顔が、強い光を浴びて暗闇から浮かび上がっています。目元は陰になって表情を読み取ることはできませんが、半開きの口はこちらに何か訴えかけているようにも見えます。

 この作品が描かれた1909年頃、彝は17世紀のオランダを代表する画家・レンブラント・ファン・レインから強く影響を受けていました。明治時代末にあたるこの時期、日本では美術雑誌『美術新報』で連載が組まれるなど、さかんにレンブラントを紹介する動きがありました。本格的に画家になることを志して、白馬会研究所に入門していた彝がこれらの情報をキャッチしていたとしても不思議ではないでしょう。また、友人である中原悌二郎の回想によれば、彝は1909年頃に丸善でレンブラントの画集を購入しており、手垢で真っ黒になるまで繰り返し見つめながら研究していたのだといいます。

 そして、この頃から海外へ留学する画家も増えていきました。安井曽太郎(1888-1955)は、明治末の1907年から第一次世界大戦が勃発する1914年まで滞欧。帰国後は、西洋での経験を踏まえて、日本人の感性や美意識に根差した油彩表現を追求し、続く昭和の美術界をリードする存在となっていきます。

安井曽太郎《少女像》1937年 宮城県美術館蔵

 《少女像》は、画家が独自の様式を確立した昭和期の作品です。鮮やかな黄色とピンク色をバックに、膝に手を置いて座る少女が描かれています。背景には、ほとんど何も描かれていませんが、奥行きのある空間が感じられるのは、安井の的確な陰影表現によるものでしょう。

 この時期の安井は、肖像画の制作にあたって、まずいくつか素描をとって、それらに基づいて油彩画に取り掛かりました。そして、対象に沿ってある程度描き進めたものを写真に撮り、その写真を参考にしながらさらに制作を進め、作品を完成させていたといいます。

 興味深いのは、写真に撮った制作途中の作品の方が実物そっくりであるという点です。いったん客観的な視点で現実の世界を忠実に写し取った後、そこからフォルムの単純化や強調、バランスを取るためにモティーフ位置の変更といった画面の整理など、画家の主観的な要素を導入するというプロセスがあったのでしょう。

 実際、《少女像》にも制作途中と思われる写真が見つかっており、モノクロ写真であるため色彩の変化こそわからないものの、陰影は完成作よりも強く表現されています。一方で、画面の左側から肩にかけて引かれた線や、その上に配されたピンクの色面は写真に見当たりません。そして、一番大きな変更は、少女の視線をあげて顔の向きを真横に近い形に変更したことで凛とした表情になったという点です。安井は、モデルとなった14歳の少女が、制作の最中にも成長を見せる様子にまごついたといいますから、その時に受けた印象や感じた雰囲気が画面に反映されたのかもしれません。

(久留米市美術館学芸員・森智志)

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