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【コラム】画商・洲之内の眼 宮城県美コレクション展から<2>執心 「盗んでも自分のものに」

2025/04/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 「買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、まちがいなくいい絵である」

 洲之内徹にそう言わしめた作品、それが鳥海青児の「うずら(鳥)」だ。

鳥海青児「うずら(鳥)」
(1929年、洲之内コレクション 宮城県美術館蔵)

 「うずら」は、写真家土門拳が、現代画廊のオーナーだった小説家田村泰次郎に売ろうと持ち込んだもの。以前から「田村さんに譲る」と約束していた土門を、当時画廊マネジャーを務めていた洲之内が口説き、ついには田村に黙ったまま、借金までして購入した。

 その絵との出合いを洲之内は「一種の興奮状態に陥った」と語った。土門から預かっていた約1カ月間、時を忘れて眺めたという。

 独特の青い色彩を「エビハラブルー」と称された人気画家、海老原喜之助。魚売りの少女を描いた「ポアソニエール」は洲之内が執心した唯一無二の作品だ。
松山市出身で、東京美術学校在学中に左翼運動へ身を投じた洲之内。やがて中国での諜報(ちょうほう)活動に転じ「殺し尽くし、焼き尽くし、滅ぼし尽くす」と呼ばれた「三光政策」にも携わった。

海老原喜之助「ポアソニエール」 
(1935年、洲之内コレクション 宮城県美術館蔵)

 「厭(いや)な仕事だった」「心が思い屈するようなとき、ポアソニエールを見せて貰(もら)いに行く」。当時洲之内は、知人記者が持つ画集でポアソニエールを目にし、荒廃した心の救いとした。

 それが現代画廊に入社後、たまたま訪れた作家宅で、現物の“彼女”を見つけた。どれだけ自分にとって価値がある絵かを説明し、渋る作家のご機嫌取りに他の絵を買った。そしてある雨の日、ついに手にした。「なんの躊(ためら)いもなく日常的なものへの信仰を歌っている」。洲之内がそう形容した少女は、いつまでも、彼の心に住み続けた。

▼響きあう絵画 宮城県美術館コレクション 5月11日まで、久留米市野中町の久留米市美術館。日本近現代美術やドイツ近代美術など宮城県美収蔵の74点を展示。一般千円、65歳以上700円、大学生500円、高校生以下無料。月曜休館(祝日は開館)。同館=0942(39)1131。

=(4月10日付西日本新聞筑後版朝刊に掲載)=

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