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【コラム】画商・洲之内の眼 宮城県美コレクション展から<1>幸せな猫 「いつまでも持っている」

2025/04/15 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
長谷川潾二郎「猫」 (1966年、洲之内コレクション 宮城県美術館蔵)

 深紅の布に寝転び、静かに眠る猫。名前はタロー。食事が趣味で、クラシックを愛し、身長は時によって変化する―。長谷川潾二郎(りんじろう)の代表作「猫」。長谷川はそのモデルとなった愛猫タローの「履歴書」にこんな内容をつづった。今にも寝息が聞こえてきそうなこの猫は、近年の猫ブームとともに人気が高まり「世界一幸せな猫」とも称される。
作品の完成に一役買った画商がいる。銀座で「現代画廊」を営んだ、洲之内徹(1913~87)。長谷川のアトリエで見つけた「猫」を、完成まで数年間待ち、譲り受けた。

 実物が目の前に無いと描けず、遅筆だった長谷川。洲之内が譲渡を頼んだとき、まだヒゲは描かれていなかった。タローが絵のような寝方をするのは、年数回ほど。その瞬間を待つうち、タローは亡くなった。顔の左側に、細く3本だけ描かれたヒゲは、タローの死後、洲之内に乞われて描き足したものだという。
楕円(だえん)に収まるような猫の寝姿は、すぐそばにいるよう。計算ずくと思えるほどに絶妙なバランスだ。緻密すぎないしま模様から、タローの体温まで伝わってくる。久留米市美術館の森智志学芸員は「長谷川は姿形をただ模す画家ではない。洲之内もそんなところを好んだのでは」と推察する。長谷川を「自立的な造形の世界を持っている」と評価した洲之内。画商でありながら「いつまでも僕が持っていることにします」と長谷川に約束して「猫」を受け取った。

 「欲しい」と思った絵は画家や持ち主の元へ足しげく通い手に入れた、洲之内徹。画商であり、芸術誌に随筆「気まぐれ美術館」を連載する作家でもあった。
彼が生涯手放さなかった作品群「洲之内コレクション」は没後、宮城県美術館(仙台市)に収蔵された。久留米市美術館で5月11日まで開催中の企画展「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」(西日本新聞社など主催)では、洲之内コレクションのうち、14点が展示される。彼が愛した名画と、作品に投げかけたまなざしを紹介する。
(児玉珠希が担当します)

=(4月9日付西日本新聞筑後版朝刊に掲載)=

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