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【コラム】画商・洲之内の眼 宮城県美コレクション展から<3>画家の才 「選ばれた者の恍惚と不安」

2025/04/17 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 東京にある国重要文化財「ニコライ堂(東京復活大聖堂)」を描いた、松本竣介の「ニコライ堂」。寂寞(せきばく)としたその光景は、この世ならぬ空気を漂わせている。松本を、洲之内徹は「いつも眼の前にある街ではなく、どこか遠くの、見えないところにある街に眼を向けている」と評した。

松本竣介「ニコライ堂」(1941年頃、洲之内コレクション 宮城県美術館蔵)

 青を基調とした幻想的な風景や繊細な都会の風景を多く描いた松本の画風は、1940年代に一変した。41年、軍による美術への干渉に異議を唱える文章「生きてゐる画家」を発表。戦争一色の時流にあらがうかのように、立ち尽くす自身を据えた作品が増える。

 洲之内は当時の松本の姿勢に「絵かきは絵で物を言わなければならない」と批判的だ。それでも48年の逝去まで、少しずつ画風を変えながら自身を見つめ続けた松本を「郷愁の画家」とたたえた。

 61年、現代画廊を田村泰次郎から引き継いだ洲之内は、最初に「萬鉄五郎展」を開いた。今や大正期を代表する画家の一人の萬だが、当時評価は定まらず、無名だった。洲之内は個展で再評価の口火を切った。
 

萬鉄五郎「自画像」(1915年、洲之内コレクション 宮城県美術館蔵)

 赤と緑を好み、強烈に色を対比させた作品も多い萬。彼の絵を一時、30点以上も集めた洲之内は「萬の魅力は、彼のイメージの孤独の深さ」と語り、「選ばれた者の恍惚(こうこつ)と不安を描いている」と評した。画家としての才にほれ込んだのだ。

 萬は自画像をよく描いた。キュビスムを志向した「自画像」で、大きく見開いた目は、射抜くようにこちらを向く。絵と向き合い、数々の画家をその審美眼で掘り起こした洲之内。絵に潜む画家の深層を捉え、情熱を傾けた。生涯手放さなかった作品群には、今もその熱が漂っている。

▼響きあう絵画 宮城県美術館コレクション 5月11日まで、久留米市野中町の久留米市美術館。日本近現代美術やドイツ近代美術など宮城県美収蔵の74点を展示。一般千円、65歳以上700円、大学生500円、高校生以下無料。月曜休館(祝日は開館)。同館=0942(39)1131。

=(4月11日付西日本新聞筑後版朝刊に掲載)=

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