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名もなき人から横尾忠則まで 門司・映画資料室「松永文庫」でポスター展【コラム】

2018/11/02 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

●名もなき人の作品に光
約5万点の映画資料を所蔵する、北九州市門司区西海岸1丁目の市立映画資料室「松永文庫」が、イラストで描かれた映画ポスター約80点を紹介する企画展を開いている。イラストをテーマにした展示は初めて。資料集めに生涯をかけ、14日に83歳で亡くなった室長の松永武さんが構想を温めてきた「最後の仕事」。戦前から2000年代まで、時代とともに変わってきた映画ポスターの世界を楽しめる。

高倉健さんのポスター展の開幕式典であいさつする松永武さん=2017年10月

「名もない人が描いたポスターに光を当てたい」
凪(なぎ)恵美学芸員によると、松永さんは生前よく語っていたという。文庫では毎年数回、「名作洋画」「スポーツ」「戦争」などテーマごとに企画展を開き、松永さんの収集品や外部からの寄贈資料を紹介している。所蔵品の中でも数が多いイラストのポスターは、テーマに沿ったもの以外は公開機会に恵まれてこなかった。松永さんは亡くなる前、イラストをテーマに企画展を開くことを決めていた。

戦前のチャンバラ映画のポスター(右側)が並ぶ松永文庫の企画展会場


戦前、戦後はカラー写真が未発達だったため、手描きイラスト印刷が主流。ポスター以外の宣伝方法は乏しく、チャンバラ映画の「鞍馬天狗 角兵衛獅子」(1938年)と「斬奸(ざんかん)誠忠録」(39年)は、題名や主演役者の顔を大きく配置してアピールする。凪学芸員は「1枚の中に情報が詰め込まれている。分かりやすいのがこの時代の特徴」。サインは入っていても、作者不詳のものが多い。
欧州映画の日本公開用ポスターを多く手掛けたことで知られる野口久光さん(1909~94)の作品もあり、フランス映画の「禁じられた遊び」(52年)や、「大人は判(わか)ってくれない」(59年)などを展示する。

海外の映画が日本で公開される際のポスターを多く手掛けた野口久光さんの作品


現代に近づくと、著名な美術家やイラストレーターが制作する例が増え、横尾忠則さんは「二百三高地」(80年)、山藤章二さんは「居酒屋兆治」(83年)を手掛けた。抽象性やデザイン性の高まりが見てとれる。

高倉健さんをイラストで表現した山藤章二さんの「居酒屋兆治」


展示品の中には、文庫に寄贈されるまでたたんで保管していたため、折り目が残った資料もある。松永さんはその一枚一枚に手のひらを押し当て、丁寧に伸ばしていた。凪学芸員は「室長が残した資料をこつこつと守り、残し伝えていきたい」と静かに語る。 (諏訪部真)=10月23日 西日本新聞朝刊に掲載=


企画展は来年1月6日まで。月曜休館。午前9時~午後5時で入場無料。松永文庫=093(331)8013。

松永文庫
北九州市門司区出身の松永武さんが、60年以上にわたって集めたポスターやパンフレットなどの映画資料を公開している施設。松永さんは映画監督を目指した時期もあったが体調面で断念した後、資料収集を始め、1997年、自宅に文庫を設置し無料開放した。2009年、全ての資料を市に寄贈し市立映画資料室となり、13年に門司港レトロ地区の「旧大連航路上屋」に移転した。16年、文化施設として初めて「日本映画批評家大賞」の特別賞を受賞。高倉健さん、大杉漣さん(いずれも故人)など名優も訪れた。

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