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菊畑茂久馬さん追悼連載⑪「名画の言い分」【2007年書評より】

2020/08/06 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 ARTNEでは、2020年5月21日に他界された福岡市の画家、菊畑茂久馬さんを追悼し、過去、菊畑さんが西日本新聞で執筆した書評や本についてのコラムを連載します。

 

【第11回】『名画の言い分』木村泰司著 集英社 ライブ感覚の痛快さ

 本を開くと「みなさま、こんにちは。木村泰司です。美術は見るものではなく、読むものです。(中略)ご一緒に、楽しく、美術を読み解いてまいりましょう」と著者のあいさつ。

 次をめくると、番号を打った西洋の美術品のカラー図版が、ずらりと百六点並んでいる。

 そして本論がはじまる。「西洋文明発祥の地は古代ギリシアです。ギリシア以前の文明は、ある意味ですべて神様に牛耳られていました。雨が降っても、雷が鳴っても、それは神様の仕業(しわざ)だったのです。『いや、そうではないのだ』と、人間中心に理性的にものを考えるようになり、哲学が生まれ、学問が生まれ、美術が生まれたのが古代ギリシアです。(中略)西洋美術史はいつもギリシアから始まります。私のこの本もそうです。そしてこの本は2400年近い美術史を一冊で網羅してしまおうという、たいへん図々しい企画ですので、どうぞみなさま、覚悟してついてきてください」

 まさにステージのライブ感覚である。語り口調の文章はわかりやすく、スピード感があり、胸のすく痛快さで、古代ギリシアから印象派まで一気に駆ける。

 読みはじめると「さあ、ここで図版(番号)をご覧ください」と次々に指示され、話が面白いから見ないではおれない。結局百数十回、めくっては読み、読んではめくり、こんな忙しい読書もはじめてだった。

 西洋美術史をかた苦しい学問の檻(おり)から易々(やすやす)と解き放ち、実に流暢(りゅうちょう)に語っていく。今や西洋美術史も、ワイン片手にエンターテイナーの卓話で聞く時代になっているのだ。それにしても空恐ろしい博識である。まだ四十一歳。十代から欧米にいて、メモ一つ見ないで滔々(とうとう)とレクチャーされるという。

 私が西洋芸術に触れたのは、小林秀雄の「モオツァルト」や「ゴッホの手紙」だった。その小林ですら「文学は翻訳で読み、音楽はレコードで聞き、絵は複製で見る。誰も彼も、そうして来たのだ」と「ゴッホの手紙」(新潮社・昭和二十七年刊)の序に書いている。隔世の感がする。

 幼少から海外に住み、欧米の大学で学び、バイリンガルなど当たり前、洋書の文献を軽々と読みこなし、西洋のセンスと知識をたっぷりと身につけた若い人たちが、これから続々と出て来て、新しい美術の扉を開いていくのだろう。この本は、その到来を告げている。(画家・菊畑茂久馬)

 

▼きくはた・もくま 画家。1935年、長崎市生まれ。57年-62年、前衛美術家集団「九州派」に参加。主要作品に「奴隷系図」「ルーレット」「天動説」の各シリーズ。97年に西日本文化賞、2004年に円空賞をそれぞれ受賞。「絵かきが語る近代美術」など著作も多い。2020年5月に他界。

=2007年9月30日西日本新聞朝刊に掲載=

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